抱き上げたルキアの身体を恋次は寝室へと運び、静かに白いシーツの上へと下ろす。
恋次の腕の中で、ルキアの身体は小さく震えていた。自ら望んだ事とはいえ、これからの事は未知の世界だ。やはりどうしても震えてしまう身体を恋次に悟られないよう、こっそりと身体に力を入れる。けれどそれはかえってルキアの緊張を高めるばかりだった。
それを見てとって、恋次はシーツの上に座ったルキアの前に、同じ様に膝をつく。髪を撫で、額に口づけて、ルキアの恐怖ごと包み込む。
恋次の手がルキアの顎に触れて、そっと仰向かせ、触れるだけのキスをする。
触れて。
離れて。
ついばむ様に、何度も、何度も。
少しずつ身体の緊張が解れてゆくルキアの前に膝まづいたまま、恋次はルキアの唇から頬へと、自らの唇を移動させる。
次いで、耳に。
次いで、首筋に。
喉に、鎖骨に。
ルキアは自分の胸元にある恋次の頭を抱き寄せ、恋次の髪を束ねている紐をそっと解く。
女性のように―――けれど女性的ではなく、かえって男らしさを強調させている長い髪、その赤い流れが、ルキアの目にはっきりと映る。
ルキアは、目の前に膝まづく恋次の額に口づけた。
赤い髪が指に絡む。その色が愛しくて、口元に寄せて、誓いのように唇で触れる。
恋次の大きな手が、ルキアの薄紫の帯を解いていく。
ルキアは自分の想いに耐え切れないように、恋次の唇に自分の唇を重ねる。
部屋の中は灯り一つなく―――窓から差し込む月の光と、互いの吐息と衣擦れの音だけが部屋の中を満たしている。
しゅる、と帯が解かれ、着物を脱がされ―――白い襦袢の紐も解かれ、ルキアの白い肌が、闇の中に仄かな光を発して恋次の目の前にあった。
神々しいまでの美しさ。
その美しさに、恋次は目を奪われる。
「―――あまり見るな」
「なんでだよ?」
「恥ずかしいからだ、莫迦」
恋次の視線から逃れようと、ルキアは両手で自分の身体を抱きしめた。その身体をそのまま抱きしめて、恋次はルキアの身体をそっと横たえる。
「すげえ、綺麗」
「―――嘘つき」
「嘘じゃねえよ」
月の光を集めたような、淡く光るその白い肌。
その肌が、恋次の愛撫を受けて徐々に桜色に染まってゆく。
きめ細かなその肌に、恋次が触れるたびにルキアの身体はざわめく―――くすぐったいような、うずくようなその感じ。けれど決して厭じゃない、もっと触れて欲しいという想い。
戌吊で、強制的に感じさせられた、あの強烈な感覚とは全く違う、穏やかで優しいその感覚―――けれど、感じる激しさはそれ以上。
自然に声が漏れて、ルキアは驚いて口元に手を当てた。自分で口を塞ぐその手を、恋次が解く。
「聞かせてくれよ」
「え……」
「お前の声が聞きたい」
恋次が、ルキアの指を自分の口元に運び、そのまま口に含んで指の一本ずつに舌を這わす。唯それだけの事なのに、ルキアの身体はぴくん、と反応する。
「ふっ……」
吐息と共に零れる甘い声に、恋次はそのまま、手首、腕へと唇で触れていく。
ルキアの全てに、唇で触れる。
確かめるように。
自分の腕の中に在るものが、何年も焦がれたルキアだと、
夢ではないと確かめるように。
恋次の唇がルキアの肌に触れるたび、そのルキアの白い肌の上に、恋次の赤い髪が触れる。
鮮やかな色彩。
白と紅とが、密やかに混ざり合う。
ルキアの声が小さく何度も零れて、縋るように持ち上げられた手が、切なげに恋次の髪に触れる。
「ん……」
無意識に唇をねだるルキアに、恋次は優しく唇を合わせ、恋次の指が、そっとルキアの秘所に触れた。
「…………っ!」
ぴくん、と跳ねるルキアのその入り口は、透明な液体で満たされていた。触れただけでとろりと溢れる感触に、ルキアは恥ずかしさにぎゅっと目を閉じる。
恋次の体温が不意に身体の上から消えて、恋次が起き上がるのがわかった。そっと目を開けてみると、恋次も身に纏うものを脱ぎ捨てていた。
身体中を走る黒い刺青。
自分とは違う、精悍な身体。
ルキアの身体を、何度も受け止めた広い胸。
ルキアは恋次に向かって手を伸ばす。
恋次の首に腕を回し、引き寄せて。
ルキアは恋次に身を委ねた。
恋次の熱が伝わる。
僅か、侵入しただけで感じる激しい痛み。
身体の力を抜いていても、初めてのルキアの内部は狭く、元が華奢で恋次との体格差がありすぎる。
「………っ!」
それでも痛みを声に出さないように、ルキアは必死で耐えた。
けれど、身体は硬直する。
恋次の首に回した手が、恋次の動きを止めるように、無意識に力が込められた。
それに気付いて、恋次の動きが止まる。
離れようとする恋次に気が付いて、ルキアは首を振った。
「離れるな……」
泣きそうなルキアの顔に、恋次は苦笑する。
「無理すんなよ」
「無理なんかしてないぞ!」
「今日は此処まで……少しずつ、慣れてこうぜ」
恋次の手が頬に触れる。優しくなぞるその軌跡に、かえって心は決まった。
「厭だ」
「…………あのなあ」
「今まで散々無理矢理しようとした癖に」
「…………」
ぐ、と言葉を詰まらせる恋次に、ルキアは小さく呟く。
「お前が他の女を抱いていたのは、やっぱり厭なんだ。このまま此処で止めたら、私は嫉妬で気が狂う。身体の痛みなんて何でもない、心の痛みの方が私には辛い。……だから」
答えは、優しい口付け。
少しでも身体の痛みを和らげる様に、恋次はルキアの身体に触れ、ルキアの官能を引き出していく。
く、と恋次は力を込める。
ルキアのそこは、初めての侵入者を助けるように濡れてはいたが、やはりそれだけでは足りなかった。狭くきついそこは、侵入し始めた恋次を追い出そうと収縮する。
ゆっくりと恋次はルキアの内部へと入る。一息に奥まで入れるよりも、少しずつ埋没させる方がルキアの負担にはならないと思ったのだが、どちらが良かったのかは解らない。
痛みに耐え、堅く目を閉じるルキアの頬に触れる。ルキアは目を開け、少しだけ微笑んだ。
「大丈夫だ、気にするな」
美しいその笑顔。
愛しいその存在。
全てを手に入れたくて、全てを与えたくて。
……やがて、恋次はルキアの奥まで辿り着く。
恐らく快感よりもまだ痛みしかないのだろう、苦痛に青ざめながら、それでもルキアは幸せそうに微笑んだ。
「……これで、私はお前のものだな」
「……これで、俺はお前のものだ」
そうしてふたりは身体の熱さを確かめ合う。
更に高く、更に深く、
心が揺れて、震えるままに、
互いを求めて、与えて。
恋次が動くたびに、ルキアから零れていた小さな声は、徐々に苦痛の声ではなく別の響きを持ち始め、やがてそれは甘い声へと変化する。
空気の冷たさも感じない。熱い身体に滲む汗に、月の光が反射してちかりと光る。
見上げる瞳と見おろす瞳が、交差する。
眩暈がするほどの幸福感。
指を絡めて、想いを紡ぐ。
出逢って、別れて、再び出逢って。
ようやくふたりは一つになる。
互いの名前を同時にふたりは呟いて、そっと唇を重ねあった。
心も身体も暖かくて、ついうとうととしてしまったようだ。ふと気付けば、ルキアの目の前に覗き込む恋次の顔がある。
先程までの、自分と恋次を思い出してルキアの顔は赤くなる。
今だって、ふたりは同じ布団の中で身体をぴったりと合わせている。ルキの頭の下には恋次の右腕があり、恋次の左手はルキアの腰に回されて、ルキアの身体はすっぽりと恋次に包まれている。
恋次は飽きもせず、ただルキアの顔を見ている。少し居たたまれなくて、ルキアは「あまり見るな」と文句を言った。
「なんでだよ」
「落ち着かぬのだ、莫迦者」
「わかった、じゃあ見ねえ」
ぐい、と胸に顔を押し付けられた。恋次の鼓動が近くに聞こえる。それは少し速く、とくんとくんとその響きをルキアへ伝える。
恋次の背中へ腕を回す。
恋次の体温を身体全部で感じる。
失っていた心の欠落を、ようやく満たしてルキアは一粒涙をこぼした。
「……ルキア?」
「なんでもない」
言いたかった事。けれど、言えなかったたった一言。
これからは、何度も言おう。
何度も伝えよう。
それが幸せだと思うから。
それを口にするたびに、きっと私はもっと幸せになる。
「―――お前が好きだよ、恋次」
心から。
指を絡めて、唇を重ねて、ふたりは想いを確かめ合った。
赤い髪と黒い髪が、白いシーツの上で混ざり合う。
―――月の光の満ちる中、ただただ優しく時は過ぎていった。
next( ENDING )―――この雪に願えるならば
お待たせ致しました、って待っていてくださった方、いなかったらどうしよう(笑)一人相撲だわ、恥ずかしい(笑)
まあそれは置いといて、予定より少し遅れましたが奥様劇場9「心から君を愛す」、お届け致します。
この回を目標に書いてましたから、変なプレッシャーが自分にありました(笑)ルキアの初めてのシーン、書きたかったから。
いやしかし書きながら照れる照れる(笑)いや私が照れてどうする、って感じですが書きながらもう照れ捲りで(笑)ベタ甘のえっちって恥ずかしいのねー(笑)
あまりの恥ずかしさにテンパって、恋次も気付けばベタ甘激甘の恥ずかしい言葉を口走っていて、翌日慌てて削除(笑)こんなん恋次は言わねえだろ(笑)
爺さんは白哉の力であっさりクリア。
その白哉と緋真の話が、日記に書いた、当初予定になかったエピソードです。これを急遽書いた為に5月中のアップが出来なくなったんだ(笑)
爺さんが戌吊に来たのは、ルキアが倒れたという情報を得て、そこから調べて追いついて来たんですね。四番隊の二人は大丈夫かなあ。
で、白哉が戌吊に現れた理由を本文中に書いてないや、と気付いてその部分を5行程度付け加えるつもりで…ああなった(笑)
兄様と緋真のロマンス!(笑)書いてる内に楽しくて仕方なくなり、気付けば5行の筈があんな事に(笑)
しかも書いてる途中で、これは単独で1本書こう!と心に決めました。その内書きます。
だから状況の説明がありません。白哉と緋真が血しぶきの中初顔合わせの理由も敢えて書きませんでした。それはまた後日。
白哉と緋真の話は100%捏造です。すみません。
しかし今回、白哉と緋真は血しぶきの中=人が斬られてる中、二人の世界を構築し、「裸心」では恋次とルキアが怪我人が周りで唸っている中、らぶらぶな世界を構成してます。
もうちょっと周りを見ようよ(笑)
さて、いよいよ次回「この雪に願えるならば」で奥様劇場はおしまいです。
多分。
…多分て…(笑)
その前に番外編としていくつかアップする予定でございます。
あともう少し、お付き合い下さると嬉しいです。
今回、恋次とルキアの初えっちシーンを書くにあたり、直前に拝見した宗さんのイラストをイメージして書かせて頂きました。感謝です!
2005.6.2 司城さくら