私が貴様に言うコトバ。それが貴様にとってどれくらいの価値が有るかは知らない。
 俺がお前にあげたモノ。それがお前にとってどれくらいの意味が有るかは分からない。

 ただ、これだけは誓うよ。



                     
 約束



「恋次」
 恋次がソファに寝ころんで本を読んでいると、向かいのソファで紅茶を飲んでいたルキアが声をかけた。
「なんだよ」
 恋次が返事をする。本から目線をあげ、ルキアの方を見た。
「……いや、何でもない」
「何でもないなら声かけんなよ」
「ああ、すまん……」
 そう言ってルキアは、少し寂しそうに笑った。恋次が舌打ちする。そんな表情をさせたいわけでは無いのだ。
 イライラとして、髪を結わえていた紐を解き、がりがりと頭を掻いた。長い真紅の髪がさらりと広る。瞬間、ルキアが息を飲んだが、恋次はそれに気付かなかった。
 デカイと評される逞しい体を気怠げに起こし、恋次はもう一度ルキアに問うた。
「で、何」
「いや、本当に何でもないんだ」
 言うルキアを、恋次がじっと見た。赤い瞳がルキアを射抜く。
「なに。何か言いたい事有るなら言えよ。遠慮するようなガラじゃねえだろお互い」
「そう、だな…」
 ルキアは恋次の視線を避けるように下を向く。そして、透き通るような白い頬に少しだけ朱を走らせて、ぽつりと呟いた。
「…そっち、行ってもいいか…?」
 ばたん、と恋次が勢いよく本を閉じた。びく、とルキアが肩をすくませる。
 が、少しすると自身の座っているソファが大きく揺れた。
 恋次が、ルキアのすぐ隣に腰を下ろしていた。そのままぐらりと体を傾け、ルキアの腿に頭を乗せる。
「れっ…恋次!!」
 赤面して慌てるルキアをよそに、恋次はまた気怠げに顔をルキアの方に向けた。
「なんだよ」
 真下から顔をのぞき込まれ、ルキアが益々困ったような顔をした。
 しばしの逡巡のあと、ルキアが言う。
「髪、触ってもいいか?」
「おう」
 恋次が了解すると、ルキアの目が輝いた。
「恋次!あのな!」
「おさげにさせろとか、縦ロールにさせろとか、そういうの駄目だからな」
「……ちっ」
 今度はルキアが舌打ちした。
 たまにはいいじゃないか、などと文句を言いつつ、ルキアが恋次の髪を弄る。何かを企んでいた様なわりには、その細い指に赤い髪を滑らせる事だけに酷く熱心だった。
「なにしてるんだよ」
「いや、恋次の髪は綺麗だなと思って」
「そうか?お前髪質いいだろ?」
 そう言って恋次がルキアの髪をそっと撫でた。そして梳くように指を髪に絡ませる。
「でも、私は恋次ほど髪が長くないからな。こうやってサラサラって出来ない」
 そうだな、と恋次が相づちを打つ。
「じゃあお前も伸ばせば良いんじゃねえか?似合うぜきっと」
「そう、かな」
「おう、伸ばせ伸ばせ」
 そして、恋次は赤い髪を弄っていたルキアの左手を捕まえ、その指に自身の指を絡ませた。
「どうせ、この先ずっと一緒に居るんだから。髪伸ばしたルキアも切ったルキアも、何回も見るんだろうしな」
 そう当然のように言って、恋次は笑う。
「……そうだな」
 くす、とルキアも笑う。少し泣きそうに幸せで。
「じゃあ、贅沢だったかな私は」
「何が?」
 指を絡ませあって遊びながら、ルキアが「本じゃなくて私を見てくれるかなって思ったから、呼んでみたんだ」
 そう言って笑うのだ。
 途端、恋次の「面白眉毛」が思いっきりひそめられた。
 びく、とルキアが動きを止める。
「な、なに?」
「あー、もー、ダメだ俺」
 そう言って自分を睨みつける恋次に、ルキアが頭の上にクエスチョンマークを点滅させる。
「なにが?」
「俺、どんどんお前にダメになってく気がする。っつーか、既にダメっぽい。っていうかダメだねもう。これからもダメだろうな」
「はぁ…?」
 よく分からん、といった風にルキアが首を傾げた。そんな時勢の活用のように「ダメ」を連呼されても。
「何が言いたいんだ恋次?」
「知るか」
 そう言った恋次の顔は少し赤い。拗ねたように指を弄る恋次を、ルキアが呼んだ。
「恋次……」
「なんだよ」
 ぎろり、とばつが悪そうに恋次がルキアの目を見る。
 どんな時でも、拗ねていても、自分の方を向いてくれる恋次。私は本当に、恋次が。

「……好き」

 そう言って、ルキアはふわりと笑う。
「……バァカ」
 優しく笑って恋次が言う。
「俺も好きだよ」
 そう言って。
 ルキアの左手薬指に光る、銀色の指輪にキスをした。



 私が貴様に言うコトバ。それが貴様にとってどれくらいの
 価値が有るかは知らない。
 俺がお前にあげたモノ。それがお前にとってどれくらいの
 意味が有るかは分からない。

 ただ、これだけは誓うよ。
 永遠に君と共に、と。





如月さんより頂いちゃいましたっ!
甘いー!甘いよ如月さーんっ!(スピードワゴン調)
髪をいじるシーンや、恋次の「もうダメだ」発言のシーンが好きです。「っつーか、既にダメっぽい」って所v

私もこのくらい甘いの書いてみたい…。頑張ろう。
如月さん、ありがとうございました!