「Sweet honey,Love word」
「恋次。」
「あ?んだよ。」
「貴様は好きな者に、なんと言われたいか?」
「・・・は?」
ルキアの突然の言葉。恋次は全く理解が出来なかっ た。
仕事の帰り、恋次は偶然ルキアと会い久しぶりに甘味 処に来たが、
ルキアはどこか落ち着いてはいなかった。
それもそのはず。藍染の一件の後、仕事で走り回って いた為に、
二人はお互いに会う事は無いに等しかった。
幼なじみとは言え、四十余年ぶりにこうして一緒にゆ っくりと時を過ごす事ができても、
どこか緊張してしまっているらしい。
そんなルキアの口から出た言葉は、あまりに意外な言葉だった。
「お前、何言ってんだ?んな突然な事・・・」
「別に深い意味は無い。ただ、聞いてみたいだけだ。」
そうルキアは静かに言うと、何も無かった様に一口白玉を口に含んだ。
そんなルキアに対して、恋次は唖然とした表情で。
いくら恋次でも、好きな相手にそう言われたら、唖然とするしか無かった。
その言いぐさからすると、ルキアは自分に対して同じ気持ちでいる様な雰囲気は無くて。
誰か、他の相手に、そんな風にも取れる言い方。
そう、例えばついこの間ルキアを助けた男に対してみたいに。
そんな用途不明な質問に、恋次は返す言葉が無かった。
いや、なんと返せばいいのかわからなかった。
返した言葉がどこで使われるかが恐かったから。
「・・・恋次?」
我に返れば、ルキアが不思議そうに自分を見上げていた。
その目は答えを欲している様で、余計恋次を追い込む。
たまらず視線を逸らし、恋次はぶっきらぼうにたい焼きにかぶりついた。
「・・・別に、何言われたって良いけどな。」
「そんな曖昧な言葉ではわからぬ。もっと具体的な言葉で言ってほしいのだ。」
そう返って来た言葉には、追い込むような力が携わっていた。
そんなに何で聞きたがるんだと、恋次には疑問さえ浮かんできた。
けれど、やはり好きな相手にそう言う風に聞かれたら正直に答えたくなる気持ちもある。
自分に使われる確証なんて無いけれど、どこか期待を込めて、恋次は目を逸らしたまま言った。
「んな特別な言葉なんていらねぇよ。ただ好きだってちゃんとはぐらかさねぇで、言ってもらえればそれで満足さ。」
「ほ、本当か?」
乗り出すように聞き返すルキア。
どことなく嬉しそうなのが、気に入らなかったが。
「あぁ、つか何でんな事聞くんだよ。 誰かいるのか?それを言いたい奴。」
そう、度胸も無かったけれど聞いてみた。
すると、ルキアの顔は熱された様に紅く染まり、恥じらいに満ち足りた。
その様子に、恋次は内心がっかりもし、衝撃を受けた。
やっぱり、あの男か。
質問の答えも、自分が投げかけた質問にも、恋次は言ってから後悔した。
こんなに、虚しい気持ちになるなんてと、絶望した。
「・・・そうか。んじゃ、勝手に言いに行けばいいじゃねぇかよ。」
「え?」
「それ、お前の好きな奴に言いに行けよ。 んじゃな。」
そう言うと、恋次はルキアの表情も見る事無く立ち上がり、勘定を机に置くと足早に店を出た。
ルキアの名前を呼ぶ声はしたけれど、恋次は振り返らなかった。
振り返れば、想いが溢れて止まらない気がしたんだ。
翌日、恋次を待っていたのは執務室に積まれた書類の山だった。
白哉がまだ隊員していない為、全ての隊長への仕事は副隊長に回る。
そのせいで、恋次の机の上には普段の倍の書類があった。
昨日の事もあり、どこか気の乗らないまま恋次は仕事に取り掛かった。
「恋次さんどうしたんすか?さっきからあんまり進んで無いようですけど。」
「あ、いや、別になんでもねぇよ。」
机にお茶を置きながら、理吉はそう尋ねた。
確かに恋次は先ほどからため息をついては筆を止め、一向に仕事が進んではいなかった。
もちろん、原因は昨日の事。
あれからルキアがどうしたのかが気になってしょうがなかった。
好きな相手に言いに行ったのだろうか、どうなったのかが気になって仕事どころの心境でなかった。
恋次の答えに、理吉は不思議そうに首を傾げ、 「じゃあ、俺この書類を9番隊に持って行きますね。」と言って、恋次の邪魔しない様に書類を持って部屋の扉に向かった。
恋次はその様子に目を向けず、「あぁ、頼むぜ」とだけ言って、また書類とにらみ合いをし始めた。
ふと、ドアの閉まった音と同時に、鍵を掛ける音がした。
普段この部屋に鍵を掛ける事は無い。
鍵を掛けるのはせいぜい隊員が全員帰った後にしか閉めない。
理吉がなんの勘違いをして閉めたのかと思い、恋次は書類から目を離し、扉の方に目を向けた。
「おい理吉、お前なに鍵閉めてっ・・・ ルキ ア?」
その視界に映ったのは理吉などでは無く、もっと小柄な影。
馴染みのある霊圧、そして振り返った愛しい姿。
「お、お前、何でここにいんだよ。今仕事中じゃねぇのか?」
「ここに書類を届けに来たのだ。浮竹隊長からのな。」
そう言うと、ルキアは一歩ずつ恋次に近づいてきた。
そのルキアの表情からは、恋次は何も読みとれなかった。
昨日のその後も、今の心境も。
そんな事を考えてる自分の心境を知られない様に恋次は平然とした雰囲気を醸し出す。
「あぁ、それか。」と、何も無い様にルキアの持つ書類に目を向けた。
「そこに置いておけ。後で見て、こっちから十三番隊に届けっから。」
そう乱暴に言うと、恋次はルキアから視線を落とし、また先ほど見てた書類に視線を向けた。
これ以上、ルキアの事を見ていられなかった。
自分の思いの我慢の限界も、衝撃の大きさにも堪えられそうに無かった。
そんな恋次に逆らう様に、ルキアは乱暴に「あぁ、わかった。」と言って、書類を机の上に置いた。
けど、ルキアは動かない。
足をぴくりとも動かさずに、座っている恋次の目の前に立ったままで。
今更ルキアを見上げられない恋次はじっと動かずにルキアの視線に受けた。
やがて、一瞬のルキアの霊圧の変化を感じ。
「・・・好きだ。」
信じられない言葉を耳にした。
「・・・・え?」
ゆっくりと見上げると、昨日見たのと同じ真っ赤な恥 じらいに満ちた表情。
それでも、恋次から目を逸らさずに見つめている。
信じられない恋次は自分の手をゆっくりとルキアの方に伸ばした。
その手を、そっとルキアは手に取ると、自分の赤く染まっている頬に重ねた。
愛おしげに、両手で包みこみ、自分の想いが伝わる様に。
「お前、何を・・・」
「昨日聞いたではないか。 好きな者になんと言われたいかと。」
自分に視線を向けながら、けれど手はそのまま頬にあてて。
「いや、お前、一護が好きなんじゃ・・・」
「何勘違いをしておるのだ。
・・・先ほど言った言葉が聞こえなかったのなら、何度でも言ってやる。」
そう言うと、ルキアは目をつむり、大きな恋次の手をぎゅっと握って。
「恋次が好きだ。」
そうもう一度言葉にした。
未だ恋次は信じられなかった。
昨日聞いたのは、まさか淡い期待のままの意味だったとは。
けれど、目の前の現状は真実で、どこにも偽りを感じなかった。
ルキアが、確かに自分を好きだと言っている。
その現実に、思わず恋次は涙が出そうなった。
「・・・貴様は。」
「ん?」
「貴様はどうなのだ・・・?」
途端、ルキアの霊圧が不安そうなものに変わった。
震える様な、その場に立っている事さえ出来なさそうなものに。
それが恋次には、昨日の自分の霊圧に似ている様な気がした。
と、同時に笑えて。
思わず、笑みを零し。
「お前は。」
「え?」
「お前は、好きな奴になんて言われたいんだ?」
そう笑みを浮かべて恋次は返した。
ついで返って来たのは、嬉しそうなルキアの表情と。
「好きと言ってもらえれば幸せだ」と言う言葉。
その言葉、愛しの貴方に紡がれて。
優しい、愛の言葉。
END
雪峰さまより頂きました!
甘い恋ルキをありがとうございますー!!