「すまない……」
 布団の中からちょこんと顔だけ出して謝るルキアの口から、咥えさせた体温計を取り出してその体温を確認し、恋次は「そんな気ぃ遣うんじゃねーよ、らしくねー」と言ってから「7度5分だな」とルキアに告げた。
「今日はとりあえず寝てろ。夕方になったら家まで送ってくからよ」
「折角の休みなのに……」
「買い物にはまた今度行けばいいだろ。今日は休め」
 久しぶりの、二人揃っての非番の日。一緒に買い物をしようと楽しみにしていたルキアが、恋次の家まで迎えに来た途端、戸口に現れた恋次の眉が顰められた。
「お前、熱ねえか?」
「え?」
 確かに昨日から少し身体がだるく喉も痛かったが、そんなものは今日のデートに比べたら本当に些細なことだったので、ルキアはすっかり忘れていたのだったが。
 あっさりと一目で看破され、熱なんてないと主張するのを無視されて布団に押し込まれ、無理矢理咥えさせられた体温計が示す数値は確かに発熱状態。
 意気消沈しながら布団に潜り込むルキアの元から離れた恋次は、しばらく戻ってこなかった。何をしているんだろう、と考えていると、小さな盆を持って恋次が部屋に入ってくる。
「とりあえずこれ喰ってろ」
「ん?」
「林檎。すりおろしたから喰いやすいだろ」
 昼には粥を作ってやるから、と言葉を続ける恋次を見つめ、ルキアはくすりと笑った。
「恋次、お母さんみたいだな」
「はあ?」
「恋次はきっといい親になるな。面倒見もいいし、子供好きだし」
「そうだな、じゃあ早く熱を下げて俺の子産んでくれよ」
 軽い口調でそう言った恋次に、ルキアは真顔で頷いた。
「うん。お前似の男の子がいいな」
「そうだろ、俺似の……って、な、何ィっ!?」
 愕然とルキアを見つめる恋次の表情に、ルキアの方が驚いた。「何?」と問い返すと、暫く恋次はぱくぱくと口を動かしただけで言葉もない。ようやく「お、お前、それって俺と結婚するって……こ、ことなのか!?」と勢い込んで尋ねると「違うのか?」とルキアは首を傾げる。
「今の、プロポーズなのかと思った」
「いや、それはもっとこう、なんと言うか、盛り上げて盛り上げてこれでもかと凝ったシチュエーションで……」
「ふうん」
「お前、こんな簡単なプロポーズでいいのか」
「うん。だって答えは決まってるし」
「…………」
「…………」
「まあ、とりあえず喰え」
「ん」
 差し出した匙をぱくんと咥えて「美味しい」と上目遣いで見上げるルキアに。
「やばい、俺も熱が出そうだ」
 小さく呟く恋次に向かい、ルキアは無邪気に「んー?」ともう一口をねだる。
「はいはい」
 親鳥が雛を世話するようにせっせと匙を運ぶ恋次の手から何度も林檎を口にして、ルキアは幸せそうに笑っている。
 出かけることが出来なくても、二人一緒にいれば楽しい、というお話。