「―――だそうですよ。そろそろ出てきたらどうですか?」
浦原の言葉に、驚きの表情を浮かべ、岩壁から現れた人影は3つ。
「あの……いつから気付いてたんですか……?」
恐る恐る尋ねる啓吾の言葉に、浦原は「ここに来る前からっス」とけろりと言った。
「キミ達が黒崎サンを尾けて来てるって知ってたから、店のカギあけっ放しにしといたんスよ」
飄々と言いながら、浦原はどこか遠くの景色を仰ぎ見る。困ったように「やれやれ」と呟くと、侵入者を振り返った。
「黒崎サンも相変わらず甘いっスね。ちょっと冷たくあたったぐらいで……絆を断ち切ったつもりでいるんですから」
その言葉を聞きながら、たつきは一護たちの消えた空間をじっと見つめる。
つい数刻前、浦原商店での浦原との会話をたつきは思い出していた。
「―――黒崎サンに、アナタの記憶を消すように言われました」
一護の気配が消え、入れ替わりに現れた浦原は、たつきと向かい合って開口一番そう言った。
「アナタがこの死神の世界と関わるのが―――あの人は怖いんですよ。今日の様なことが、二度と起きて欲しくないんでしょうね。それに、自分が虚圏に行ってる間、アナタに心配を掛けるのも本意ではないんでしょう―――黒崎サンが帰るまで、アタシがこの件の記憶をなくしたアナタを護るように仰せつかりました」
「―――それで」
唇を噛んでたつきは言う。右手は布団を握り締めて小さく震えている。馬鹿野郎、と声はなく唇が動いた。
「浦原さんは―――如何するんですか」
「アナタは如何ですか?今日のことは忘れたいですか?」
「いいえ」
はっきりとたつきは言った。
何も知らない日々に戻りたくは無い。
一護が生命を賭けている間、何も知らずに日々を過ごしたくは無い。
「と、言うと思いました。いいですよ、黒崎サンが帰ってきてからあたしが怒られればいいことです」
扇子を開いて浦原は笑った。
「それと、黒崎サンが戻ってくるまでに、アナタを一人前の死神にしてあげましょう。黒崎サンが心配しないでいいくらいの強い死神にね。幸い、アナタと同じタイプの雨がうちにはいますしね。あの子はアナタのいい先生になると思いますよ」
楽しくなりますね、と笑う浦原をたつきは不思議そうに眺める―――「あの」と首を傾げて尋ねた。
「どうしてあたしに―――初めて会ったときから色々―――気を使ってくれるんですか」
何のメリットもないのに、というたつきに浦原は「最初に言ったでしょう」と笑う。
「アナタ、アタシの最愛の人に似てるんですよ。そりゃあ贔屓もするってモノです」
絆を断ち切る気でも―――。
「そんなこと、絶対に許さないからな、バカ」
今は何の異常もない空間、一護の姿が消えた空間を見つめたつきは呟く。
望む道は、共に歩くこと。
『たつきちゃんがケガしたらと思うとすごくこわいよ。だからさ』
幼い一護の声が蘇る。
『ぼくが、たつきちゃんをまもってあげるよ』
あの時からずっと、一護の想いは変わっていなかったのか、とたつきは苦笑する。
危険から遠ざけ、護っていることを悟られないように。
一方的に護られるのは絶対に嫌だ。
これからも対等な立場で。
何でも言い合えるこの関係で。
幼馴染で喧嘩友達で仲間で。
そして―――代わりなんていない、たった一人の特別な。
十年先の未来にも、その先の永遠に近い未来にも、変わらない想いを一護に誓う。
「あたしがあんたをまもるような気がするよ、ずっと」
幼い頃の自分の言葉を繰り返す。
あんたの背中を護るのはあたし。
あんたの心を護るのはあたし。
あんたの隣にいるのは―――あたし。
「帰ってきたらとりあえず一発ぶん殴ってやる」
だから早く。
どうか無事で。
たつきはいつまでも、一護の消えた空間を見つめていた。
fin
あとがきでございます。
こちらは「一たつ祭り」に投稿した話で、主催者のまっちょKingさまが考えられた9つのお題を使って連作させていただいたものです。
どれも素敵なタイトルで、話がどんどん出来てきました。
自サイトなので、これを書いたときの裏話などを。
「ヒーローにあこがれて」
ちんまい一護がいっちょまえに大言を吐く(ひでぇ)話。
子供の頃の一護は、たつきちゃん大好きオーラを惜しみなく発揮していたと思います。
話中の「カイザー」はあるアニメの登場人物を使わせていただきました。わかる方はいますかねー(笑)
「境界線の上で踊る」
タイトルで一番好きです。たつきの切なさを出したかった。
一護への想いは友情と信じたいたつき、でも本当は恋情だと気付いていて、必死に自分で否定するたつきのかなしさを書きたかった。
のに、力不足。ぎゃふん。
話中、たつきが浦原商店で感じている霊圧は、テッサイさんとジン太と雨。浦原さんは完全に霊圧を消しています。
茶渡と雨竜と織姫は死神じゃないので、一護と似ているとたつきは思っていません。
「泣き虫で意地っぱり」
本当はこのタイトルに一番合ってるのは一護だと思うのです。
たつきの前で結構弱音を吐いちゃいそうになるけど、たつきに情けない男と思われたくなくてつっぱっちゃう、みたいな。
でも今回はそのままたつきに当てはめました。
泣きたいけど、自分でそれを認めない。
話中の「すごい霊圧」は、恋次と浦原さん。特訓中でした。
「本気でついた嘘」
私がギン乱を書くエネルギーの源が「ごめんな、乱菊」に集約されるように、私の一たつを書くエネルギーの根源がこの一護とたつきのシーンです。
切なさ大爆発。
何回もこのシーンは書いてますが、スタンスはいつも一緒。
「たつきを巻き込みたくないから突き放した一護」。
たつきの気持ちよりも自分の気持ちを優先しているんですね。
青いぜ。
話中の「大きな霊圧が消えている」というたつきの言葉は、恋次がSSに帰った後だから。
恋次の霊圧は大きいんです。ふふふ。
「タイムリミット」
私が今回一番のりのりで書いた話。
叫ぶシーンは私のテンションも高くなっています。
一たつ祭りの話で、まず一番最初に考えたのは、この一連とは全く別の話で、その話ではたつきが死神になっている話だったのです。でもいきなりその話だけ書いても、たつきが死神になる経緯がないから唐突すぎるな、と思い、じゃあたつきが死神になるとしたらどんなストーリーになるだろう…と考えて出来たのがこの一連の話。
とにかくたつきが死んでしまう、というのがまずあって、その状況を前に一護が錯乱するシーンを書こう、と思いました。これがメイン。たつきを死なせるのは簡単ですが、そこからどう生き返らすかが問題で、原作を読み返したらSSに乗り込む前に、死神の力を無くした一護が浦原さんに因果の鎖を切られて「助かるには死神になるしかない」と言われているのを発見。
これだ…!!(笑)
たつきが死ぬ、というポイントもクリア。そしてどうしたら死神に、というのも1巻を読んで解決(やや強引に)。パズル完成!
つまりこの一連の話は、まずこの「タイムリミット」の話があって、それから前後の話が作られたのでした。
しかし浦原さん、時間がないというのに一護に説教して…その間にたつきが喰われてたらどうするんだ…。
「幸運の青い鳥」
話の関連に一番苦しんだタイトル。
結局、たつきが欲しかったものは一番近くにいた一護だった、というのを、探していた青い鳥は実は家にいました、という青い鳥の話と無理矢理絡めました(笑)
一たつ祭りは裏禁止だったのですが、根っからエロティカな私はその風味も取り入れたく(笑)虚とのシーンはちょっとその風味で書いてみました。
(私の中では)たつきちゃんは白打系の死神設定なので、虚との対戦は接近戦です。
経験の無さから(虚の頑丈さの知識とかなかったから)やられちゃいましたが、能力は高いと思ってます。
一護はあっさりと虚を倒したと思われます。
「ありったけを込める」
突然一人称。
想いを告白するシーンは、一人称が書きやすい。突然ここだけ一人称なのもどうかと思いましたが、章タイトルごとに書いてるんだしいいか、と。祭りだし(笑)
たつきはまだこの時点で一護が死神と知らないのに、死神と言ってるたつきが自分的に良し(イタイな私)最後の一文は気に入ってます。死神一護。
「雨のち虹」
めでたしめでたし…で終わらない(笑)
やっぱりたつきの記憶を消そうとする一護。自己中。たつきの為を思ってのことですが。
やっぱり生命の危険がある場所に行こうとしてるので、たつきの性格上、ものすごく心配するのは一護にはわかっているから。
どんな話でも恋ルキを絡ませてしまう自分に万歳。
最後の文章のたつきと一護、対になっているのに気付いていただければ本望です。
「10年先の未来にも」
浦原さんが美味しいです。
今後、雨を先生にたつきは浦原商店で修行します。
時々夜一さんにも修行してもらったり。夜一さん繋がりで砕蜂にも修行してもらうといい。白打系で最強クラスになればいいよ!
さてさて、長い話、私の捏造話を読んでくださってありがとうございますv
今後は一護とたつきも積極的に書いていく予定です。
時々見に来てくださると嬉しいです!
現時点で一たつ裏を書く予定はありませんが(笑)
一護にはもっとじたばたしていただきたい。
書いてて「青いなー、一護」と思うくらいが楽しいです。たつきのスカートの短さにどきどきしてるよーな一護がいいなあ。
ま、現時点での話。
恋ルキも当初裏を書く予定など全くなかったのを思えば、裏を書かないなんて言葉はどれだけいー加減かわかるってもんです。
白一護なんて絡んだら、もうめちゃくちゃダークな裏が書けますけどねっ!(笑)
それでは、ここまで読んでくださって本当にありがとうございました!!
投稿:2007.7,29 一たつ祭り
自サイトアップ:2007.9.21