「よくまあそんなに鯛焼きが食べられるものだな、しかもこんな真夜中に」
ルキアは呆れ、半ば感心しながら、3個目の鯛焼きに手を伸ばした恋次を見ながらそう呟いた。
窓の外はしんと透明な空気で満ちている。先刻まで聞こえていた鐘の音も、聞こえなくなって随分時間が過ぎたようだ。
年を越す、その瞬間とそれ以降は、何故だか厳粛な気分になるものだが、恋次はそういった感慨とは無縁らしい。美味しそうにその餡子の詰まった和菓子を口にしている。
「あ?美味いぞ、これ」
「お前は鯛焼きがそんなに好きなのか」
「まあ甘いもん好きだからなあ」
もぐ、と口を動かしてそういう恋次は、その鯛焼きが年が明けて初めて口にした食べ物とわかっているのだろうか。
「甘い物の中では鯛焼きが一番なのか?」
そう何気なくルキアが尋ねると、恋次は「いや」と首を横に振った。
「もっと甘くて美味いものがあるんだぜ」
「ふうん、何だそれは?お菓子か?」
「もう最高に甘い。滅多に喰えねえ。喰いたくて仕方ないけど中々許してもらえねえから」
ふう、と切なそうに溜息をつく恋次がおかしくて、ルキアはつい笑ってしまった。
「なんだ、それは高価なのか?滅多に売ってないのか?」
「高価だな、最高級」
「食べてみたいな、私も。そんなに美味しいのなら」
「ん、食べるか?ってか、食べていい?」
「は?何故私に聞くのだ?」
「食べていいか?」
「食べればいいだろう、別に私の許可を得なくても……うわっ!」
突然圧し掛かってきた恋次にルキアは悲鳴を上げたが、気付けば床の上にしっかりと押し倒されてどうにも身動きが取れない。
「では頂きます。」
「な、何の話だ?!」
「俺の大好きな甘くて美味い滅多に喰えない代物を頂きます」
「はあ!?」
話が全く見えないまま、きょとんと見上げるルキアの耳に、恋次の舌が侵入する。その感覚にぞくっと身を震わせて、「こら!」と両手で恋次の顔を抑えてそれ以上の暴挙をルキアは阻止した。
「新年早々何をしている、莫迦!」
「今年最初のご挨拶だ」
「莫迦、さ、さっきだってしたじゃないか!」
「あれは去年。暮れの元気なご挨拶」
「除夜の鐘と共に煩悩は去ったんじゃないのか!?」
「たった108回で俺の煩悩はなくならねーぜ」
言葉の応酬をしながら、恋次は抵抗するルキアをかわしてあっさりとルキアの服を脱がせる。年が明けたばかりの何処か厳かだった空気は既に微塵もなく、静かだった部屋はルキアの「莫迦恋次!」という抗議の声で満ちている。
「如何してお前はそう……」
怒るルキアの声を唇で塞いで、自分のペースに持ち込むのは恋次の常套手段。
舌を絡めて胸を愛撫すれば、ルキアはもう抗議できない。その与えられる感覚に、くたりと身体中の力が抜けて、恋次に身を任せるしかなくなってしまう。
そのルキアの身体を壁にもたれかけさせ、恋次はルキアの両足を大きく広げた。
「……!?」
流石に我に返って暴れだすルキアの足首を掴んでその動きを封じると、恋次はぺろりとルキアの泉に舌を伸ばす。
恋次の舌が触れ、その刺激故に声も無く仰け反るルキアから、更に泉の水が溢れ出す。
「甘ぇ」
「……はあっ……」
「これが俺の一番好きな、甘くて美味いやつ」
再び舌で蜜を掬い取ると、ルキアの身体は痙攣したようにびくんと震える。
「『ルキア』っていう最高級のものからしか採れないんだぜ。なかなか舐めさせてもらえねーけど」
「あ、たりまえ、だ、莫迦……!こん、な、恥ずかしい事、やだ……っ」
ルキアの涙声の懇願も、恋次の愛撫ですぐに甘い啜り泣きに変わる。
恋次が煽るまま、ルキアの心も身体も翻弄されていく。
身体を抱きかかえられて、壁に手を付き、恋次を迎え入れる姿勢をとらさせるのも、ルキアは逆らわずに受け入れた。
既に馴染んだ恋次のそれ。
もう、何度もルキアを高みへと連れて行ったその行為。
慣れたはずなのに、恋次が入るその瞬間、ルキアはいつも息を止めてしまう。
「うぁ……っ」
もう、恥ずかしさやそれから生じる怒りも、いい様にあしらわれている自分への情けなさも恋次への悔しさも、何もかもルキアの頭の中にはない。
それだけ恋次の与える刺激、ルキアが受ける感覚が激しすぎるのだ。
恋次と繋がるその部分、その上の一番敏感な部分に、更に恋次は指で刺激を与えてルキアを狂わせる。
突き上げる動きに絶えかねて、壁に縋るルキアの口元に、恋次の指があてがわれた。そのままルキアの口に差し入れる。
「ほら、お前も食べたいって言ってたろ?」
「ん……っ」
恋次の指が口内で踊る。それに舌を絡めながら、ルキアは深く恋次を感じる為に、自ら激しく動き出す。
「……イくか?」
言葉を口にする余裕も無く、ルキアは首を縦に激しく振った。きり、と壁に爪を立てる。激しい呼吸と共に、恋次の動きに合わせて小さく声が零れる。
甘くかすれたソプラノ。
恋次の動きに合わせて奏でられるルキアの音楽。
最後に細く艶めいた声を響かせて、力が抜け倒れこむルキアの身体は、しっかりと恋次の腕に抱きかかえられていた。
時間を置かずの立て続けのその行為に、ぐったりと恋次に身体を預けるルキアの髪を愛しげに撫でながら、恋次はこの幸せを噛み締めていた。
ルキアが腕の中にいる幸せ。
その幸せな気分を悟られないように、恋次はからかう様にルキアを苛めてみる。
「な?美味かったろ?」
伏せられていた瞼が微かに揺れて、紫色の瞳が恋次を見上げた。ルキアの頬に朱色が広がっていく。
「…………」
「あ?何?」
小さく呟かれた声が聞き取れなくて、恋次はルキアの唇に耳を寄せる。
「………この性欲魔人!!」
どごぉっ、とルキアの拳が恋次の腹にめり込んだ。
甘い甘い砂糖菓子から突如スパイシーな激辛料理に変化したルキアの、そのあまりのからさに恋次は身を二つに折って悶絶した。
2006年お正月用SS。
本人は「暮れの元気なご挨拶」発言が気に入っております。