どこからか泣き声が聞こえていた。


 何処だ、と辺りを見渡す。周りは緑色に永遠と続く草野原、空には果てしなく青く澄み渡る空。
 ふと自分の名前すら覚えていない事に気がついて戸惑ったが、この空と地の間、さしたる問題も無いだろうと歩き出した。
 今重要なのは、この声が何処から聞こえてくるか、という事だ。


 ―――声が聞こえる。


 その声を自分は知っている。泣いているその声が切なくて、いたたまれない。何処までも続く緑の絨毯と青い天井の下、声の主を探す歩調は、自然速くなった。


 ―――いた。


 こちらに背を向けてうずくまっている10歳位の少女がいた。白い着物を着た、丸めた小さな背中が小刻みに震えている。声はその少女のものだった。


 ―――おい、どうした?


 脅かさないように、ゆっくりと声をかける。
 少女の泣き声が小さくなった。


 ―――待ってるの。


 背中を向けたまま、少女は小さく呟いた。


 ―――待ってるって、誰をだよ?


 それには返事をせず、少女は再び泣き始めた。その少女の泣き声は、何故だか胸を締め付ける程の苦しさを与える。どうにかして少女の涙を止めたい。しかし、どうしたら良いか解らずにただ立ち尽くした。


 ―――なあ、泣くなよ。なんだったら一緒に探してやるからよ、その誰かを。

 
 少女は首を横に振った。黒い髪がそれにつれて左右に揺れる。


 ―――来るのを待っているんじゃないの。気がつくのを、待ってる……


 少女は立ち上がった。小さな身体はゆっくりと大きくなり、華奢な体つきはそのままに、けれども女の身体の丸みを帯びる。


 ―――このまま逝くなんて許さん。そんな事を私が望むと思うのか、莫迦者。


 ―――早く思い出せ。自己を取り戻さねばこのまま消え去る事になるぞ?


 ―――逝くな、………!


 女が口にした名前は、掻き消されて宙に霧散した。女はそれに気がつき唇を噛む。


 ―――私を呼べ。そうすればすべてが蘇る。 


 ―――自分の名を忘れても、私を忘れるなんて事はないだろう?


 挑戦的な物言いの陰に潜む、僅かな怯え。
 

 
 ―――私を呼べ!


 知っている。この声を、姿を知っている。
 茫洋とした記憶の中で、それだけは確かな、確固たる力を持った想い、記憶。


 「―――ルキア……! 」


 名を呼ばれて、ルキアは嬉しそうに微笑んだ。
 その姿は急速に薄く、空気に溶けていき―――――――












 最初に目に入ったのは青い空だった。
 誰かの手が、胸の傷に当てられている。そこから暖かい力が流れ込んでいる事に気がついて俺は身体を起こした。
 ―――生きている。
 あれ程切り刻まれた身体が、完全ではないにしろ塞がっている。横を見れば、そこには理吉と花太郎が俺を見つめていた。
 「俺思い出したんたんです、恋次さんに憧れて十三隊に入ったんだって事」
 少し照れたように、けれど真面目な顔の理吉は、「これ」と荷物を差し出した。
「新しい死覇装と手拭と髪留めです!これでびしっと決めてくださいっ」
 「理吉……」
 理吉から手渡された手拭を額に巻きつける。
 立ち上がる。
 




 
 まだ諦めない。
 共に歩く夢を失くしていない。

 
 ―――辛気臭ぇ顔ばっかり見せやがって……


 昔のような笑顔を。
 その笑顔を見るまで諦めない。
 
 
「―――待ってろよ、ルキア!」


 約束を果たす時は、近い――――






恋次、臨死体験(笑)
WJで恋次が復活した週に書いたものですが、あまり気に入ってないのです、自分で。
でもあまりにも更新してないのでとりあえずアップする事にしました(笑)
なのでそのうち削除するとおもいます(笑)


2005.1.31  司城 さくら

えと、削除したのですが、アンケートで好きと言ってくださった方が多かったのと、読みたいと言ってくださった方がいたので復活します。
ありがとうございました!

2005.4.2  司城 さくら