「パジャマ?」
思わず聞き返したルキアに、恋次は「おう」とふんぞり返って応えた。
「そんなのでいいのか?……誕生日プレゼントがパジャマ……?」
「パジャマがいいんだよ、そうだな、白と水色の太いストライプのやつ」
「……まあ、お前が欲しいというのなら別に構わぬが……明日、帰りに買ってくるが……本当にいいんだな?」
「楽しみにしてるぜ」
「……?」
「お誕生日おめでとう、恋次」
夕食後、その言葉と共にルキアが渡した包みを嬉しそうに受取って、「開けていいか?」と恋次は尋ね、いそいそと中のパジャマを取り出した。
「うーん、完璧だぜ」
「それでいいのか?」
「ああ、理想通りだ」
「?」
かさかさと袋から取り出したパジャマを、恋次は嬉しそうに眺めると、上のパーツをルキアへと差し出した。
「これ、着てくれ」
「はあ?」
「パジャマを二人で分け合って着る!!これぞ男のロマン!!」
「何言ってるんだお前は」
「着てくれ!今日は!今日だけは!!」
「泣くな!解った、解ったから……しかし、私には大きすぎるのだが……」
「そこがいいんじゃねえか」
「……さっぱり解らぬ……」
首をかしげながらパジャマを受取って、ルキアは自分の部屋へ消える。ワクワクしながら待つ恋次の前に現れたルキアは、「なんか……どうも落ち着かぬ」と困ったような顔で現れた。
恋次サイズのパジャマは大きくて、裾はルキアの膝上にまであって、ぶかぶかのパジャマの中でルキアの身体は泳いでいる。袖も長くて手が出ないので、折り曲げて手を覗かしていた。
「これぞ男のロマン……っ!」
恋次は感動して泣いた。
男泣き。
「お前のことがよくわからなくなってきたぞ、私は……」
「いや、最高のプレゼントだぜ。サンキュー、ルキア」
「まあお前が喜んでくれたのならそれでいいが……なんだったら一緒に寝るか?」
「……は?」
ぴしい、と恋次は固まった。
「たまにはいいだろう、子供の頃に戻ったようで」
「は、子供の頃、デスカ」
「ん?声が虚ろだぞ?」
「いやナンデモアリマセン」
「どうする?嫌なら止めるが」
「いえお願い致します」
自ら首を絞める恋次だった。
「じゃ、お休み恋次」
「あ、やっぱり寝るんデスカ」
「やっぱりお前が良く解らん……」
「いえいえオヤスミナサイ」
「お休み」
くう、と軽い寝息がする。
男物のパジャマを着るルキアを横にして、勿論眠れるわけもなく。
ぶかぶかなパジャマは、ルキアの胸元を際どく覗かせ、綺麗な細い足は惜しげもなく白いシーツの上に重なり合って投げ出され。
しかも季節は夏。8月最後の日とはいえ、暑いことには変わりない。
ルキアは身体に何もかけずに横になっているのだ、恋次の隣で。
漏れる吐息と、伝わる体温。
手を伸ばせば届く距離。
―――伸ばそうと思えば。
「いやなんか俺、段々悟ってきたって感じ?」
手を出せない。
こんな姿を見せられても、やっぱり何も知らないルキアに襲い掛かる事など出来るわけもなく。
「なんて罪作りな奴……」
ふう、と溜息をつきつつ、しっかりルキアの寝姿を目に焼き付けておく恋次だった。
2005年8月31日、恋次誕生日SS表バージョン。