それを何と例えたらいいのだろう。
この、自らの胸を焦がし、視界も思考も紅く染め上げる激しいこの想いを。
一瞬にしてこの身を焦がす、灼熱の想い。
全てを焼き尽くす、炎のようなこの衝動を―――――
紅煉
ルキアが消えた。
虚を狩りに独りで降りた現世で、その消息が途絶えた。
その日から恋次はルキアを探し続けている。
十三番隊の詰所には毎日通い、ルキアの行方が判明したか、ルキアの情報が入っていないか確かめた。
自分にできる全ての事をし、仕事中も非番の時も、空いた時間は全てルキアの消息を掴むために使った。
―――しかし、手に入る情報はあまりにも少なかった。
何の地位もない下端の恋次に掴める情報は、全くと言っていい程無かった。
しかし、上では何か掴んでいるのだと恋次は覚っていた。それでなくてはあまりにこの状況は不自然だ。
ルキアは大貴族の養女である。そのルキアが行方不明になって、全く上が動いていないというのは―――
―――いや、動いているのか。
恋次は唇を噛み締める。それらは水面下で、誰にも知られずひっそりと……確実に進行しているのか。
―――もっと力が欲しい。今のままでは駄目だ。こんな下端じゃ、ルキアを見つけることは出来ねえ。隊長クラス、せめて副官クラスにならなけりゃ―――
強い想いは力を呼ぶ。
恋次は僅か半月で、六番隊の副隊長に―――ルキアの行方を知る道に最も近い、ルキアの義兄である朽木白哉の副官という地位に、異例の速さで就任した。
全ては、ルキアの為に。
全ては、ルキアを取り戻すために。
最初の半月は、副官の仕事を覚える事が時の大半を占めた。新しい仕事に忙殺される中、それでも恋次はルキアを探す事を止めなかった。
ほんの僅かでも時間があれば、ルキアの行方を、その情報を求めて歩いた。時には睡眠時間を削ってまで。
その間、隊長でありルキアの義兄である白哉の口からは、ルキアを心配するたった一言の言葉も、発せられる事は無かった。
暗い水面のような静かなその表情に、恋次は奥歯を噛み締める。
孤独を恐れるルキアに家族が出来ると。
開かれた未来が約束されていると。
そう信じて、差し伸べられた手を取らなかった。
それが間違いだったと気付いても、時はもう戻らない。
道は分かれた。
その時から二人の道は交わる事無く。
ルキアの顔から笑顔が消え、恋次の傍に温もりが消え。
ルキアと恋次は「独り」になった。
副官となって、得られる情報の量は格段に増えた。
上はやはり極秘裏に、ルキアの行方を調査しているようだった。
極秘、という部分が恋次の不安を煽り、
そして不安は現実となる。
『 朽木ルキアを捕らえよ。 さもなくば 』
『 殺せ 』
映像庁から渡された資料の中に、ルキアの現世での映像があった。
ルキアが笑っている。
ルキアが怒っている。
ルキアが驚いている。悲しんでいる。喜んでいる。
まるでこの数十年の孤独を一気に取り戻したかの様な、その数々の表情の奔流。
今まで自分の胸に留めていたそのルキアの表情が、他の誰かの眼に映っているというその事実に、恋次の眼は鋭くなる。
そして同時に胸の奥が、ちりりと熱く強く―――熱を持った。
そして――――
恋次は見つける。
二月の間捜し求めた、愛しい女の偽りの姿を。
「それ」はルキアの姿を完璧に模した義骸―――けれどもその表情は人間の物。
捜し求めた女は、二月前とは明らかに違う雰囲気をその身に纏っていた。
胸の奥が熱を帯びる。
その熱さに耐え切れぬように、恋次はルキアに刃を向けた。
その姿は義骸。
その表情は人間。
入れ物を壊せば、元のルキアに戻る筈。
そう考えて斬魄刀を振るう恋次の前に現れた一人の人間が、ルキアを変えた人間だと気づき。
次いで白哉の言葉に凍りついた。
『 奴 に よ く 似 て い る 』
十三番隊。
副官。
偶然見かけた。
ルキアの。
明るい笑顔。
孤独だったルキアの。
表情を取り戻させた。
そして、
生命を堕とし、
ルキアの心にその姿を、
永遠に刻み付けた、
あの男。
あの男と同じ顔。
「―――――――――ッ!!」
胸の奥の熱は、灼熱となって恋次の身体を一瞬にして包み込む。
その炎を何と例えたらいいのか。
思考も視界も、全てを紅く染め上げる灼熱の焔。
全てを焼き尽くす焔のようなその衝動に、恋次はただ突き動かされて、いた―――。
焼きもち恋次です(笑)
原作でルキアと牢越しに話した時の場面で、ルキアが行方不明だった2ヶ月の間に恋次が副官に就任したと知って、これは間違いなくルキアを探すために頑張って副官になったんだな、と(勝手に)確信しました(笑)
それなのに、やっと見つけたルキアは他の男と楽しそうに暮らしてたらショックでしょう(笑)
と言うわけでこの話が出来ましたとさ。
焼きもち焼きもち(笑)
2004.9.6 司城さくら