「最近太っちゃって」
 溜息と共に告げられたその言葉に俺は眉を顰めた。彼女の体型は卒業前と変わらず、細くて華奢だ。
「……変わってないと思う」
「そんなことないよ!だって昨日計ったらよんじゅう…」
 そこではっと口を閉じた。何故女というのは体重を知られるのが厭なんだろう。別に体重で好意が決まるわけでもないと思うんだが。
「……勝己君はいいよね。毎日大学で運動してるし。私なんて高校卒業したら運動とは縁がなくなっちゃって……え?」
 おもむろに抱え上げた俺に、硬直した彼女の顔は子供みたいで可愛い。大学に入って薄く化粧するようになったが、普段は大人びてみせるその化粧も、今はその効力を失っている。
「ななな何してるの」
「重くない」
「お、重いの!っていうか何!下ろして!」
 ああ、と頷いて希望通りに彼女を下ろす。……ベッドの上に。
「……ちょっと勝己君、何でシャツ脱いでるの?」
「いや……運動したいんだろ?」
「それと勝己君の行動の因果関係がわからない!」
「俺の手伝える運動って言ったらこれだろう」
「他にも一杯あるじゃん!……ちょっ、勝己君!ダメだって……」
 うろたえる彼女のシャツの釦を全部外すと、見下ろす彼女の顔が真赤になっている。そういえば日の光の下でみたことはなかった……けれど、暗闇の中で観るのとまったく変わらないなだらかな曲線。
「……全然太ってない」
「そうでしょ?そうだよね、気のせいだよね!だからもう運動はいいや!あはははっ」
「だが……軽い運動は毎日した方がいい。健康の為に」
「って勝己君、軽いなんて言えるレベルじゃないんだもんっ!ってか毎日っ!?」
「軽くするよう努力する」
 後は行動で黙らせながら俺は考える。
 あまりハードな運動だと太るどころか痩せてしまうから……まあ毎日は止めておくようにしようと思う。