ピアノを弾く、という行為は、昔から素直に自分を出せる唯一の行動だったと思う。
 だから、学生来の友人の「零一がピアノを弾いている時は本当に楽しそうだな」という一言に素直に頷く自分がいた。
「そうだな…楽しんでいると思う。ピアノを弾く事はとても心地よい」
「それは顔に出てるさ。ピアノの前のお前はいい顔をしているよ」
 グラスを拭きながら友人はそう言った後、ニヤリと笑った。
「こないだ来た生徒ちゃんの前で、同じ顔をしていたぜ」
「…何?」
「お前が誰かに惚れる日が来るとはね。しかも生徒!」
「何を言っている。そんな事ある訳がないだろう」
 撫然としながらカウンターのグラスに口を付ける。何故だかグラスの中の琥珀色の液体は大きく波打っていた。
 生徒に恋愛感情?
 この私が?




 入学した当初の彼女は、特に目立つ所のないごく普通の生徒だった。スカーフの曲がり具合を注意した時に見せた怯えた表情を思い出す位だ。
 ただ、その後学力を身に付け、その成績は学年で一位を取る程になり、運動能力も見違える程アップして、体育祭でクラスの優勝に貢献するまでになった。
 一度、理由を聞いた事がある。その急激な成長に何かきっかけがあったのかと。すると彼女は「先生のクラスにふさわしい生徒になりたい、って思っただけです」と照れた様に笑った。
 その言葉が嬉しかったから、彼女の知識がもっと増えるようにと、休日に課外授業を行っていたのだが。
 そう、あくまで彼女の為であって決して自分が会いたかった訳では、ない。



 けれども毎年恒例の、理事長主催のクリスマスパーティーで、普段の彼女の少女らしい装いとは違う大人びたドレス姿の彼女を見て、一瞬高鳴った胸は何だったのだろう?
 そして、遅くなったことを彼女の親に詫びようとした時に「先生と一緒だからと言ってますから大丈夫です」という彼女の一言、ただの一教師としか見られていないという事実に、痛んだ胸は何だったのだろう。


 新年に、誰よりも早く彼女に会いたいと思った事は?
 規則を無視して、彼女のプレゼントだけを受け取った事は?
 何よりも、男子生徒と一緒に下校する彼女を見て、胸が焼けるような思いをした事は一体何だというんだ?


 この世の中に解けない問題はない。
 すべては必ず正しい答えがあるものだ。
 状況をよく見て、公式に当てはめ、丁寧に問題を分析して行く。
 そうして導き出された答えは、


「彼女を愛している」


 ……この私が!




 そうしてもうすぐ3月が来る。彼女が巣立つ時だ。
 もう二度とこの学校で会うことが出来なくなる……その日が来ないことを祈る自分と、教師と生徒の関係が終わる日を待ちわびている自分がいる。



 卒業式の日、自分がどうするのか。
 今はまだ何もわからなかった………。











私が生まれて初めて書いたGS話(笑)なので今から5年前くらいでしょうか…
文章がへたっぴなのはそんな理由なので、ご了承ください。
昔の私は純粋だった…2回目のGSマイブームで真っ先に書いた創作はためらいなく18禁だったもんなあ…(笑)