いつものようにルキアを抱き寄せて唇を重ねると、ルキアは何故かいつもと違って、俺の胸に手を当てて、まるで拒否するかのように押し返してきた。
勿論そんな事を俺が受け入れるはずもなく、その手を掴みもう一方の手で腰を引き寄せ、覆い被さるように更に深く舌を絡める。
今度は明らかに逃げ出そうと顔を背けるルキアを俺はやはり許さずに、腰にあった手を頭へと移動させ、頭を抱えよせて逃がさない。
そこでようやく諦めたのか、ルキアはもう俺の為すがままになっていた。なので俺は仕置きの意味も込めて、いつもより更に激しく濃厚にルキアの甘さを味わう。ルキアの身体が小さく震えて、聞こえない位の僅かな声を洩らす。それは確かに感じている声だった。それを聞いて俺は満足し、ルキアを開放してやる。
普段以上に念入りにしたせいだろう、ルキアの顔はいつも以上に赤い。その赤い顔で暫く俯いていたが、思いきったように顔を上げると「……おかしくないか?」と言い出した。
「何が?」
「……毎朝毎朝、その、こうして……き、キスをしていることとか」
「何処が?朝の挨拶じゃねーか」
「しかし、ここでそんな挨拶をしている者はいないし……」
「そりゃあ周りは貴族ばっかりだからなあ。いいじゃねえか、俺たちは俺たちなんだからよ」
「それに、その、挨拶にしては、ちょっと、何と言うか……は、激しい、と言うか……」
「そりゃあ『おはよう』の他に『今日もがんばろーぜ』っつー気合も入ってっからな」
「で、でも!お前だって誰かに見られたら恥ずかしいだろう!?」
両手を握り締めて叫ぶルキアを見て、俺は答えた。
「全然。」
きっぱりと。
その答えを聞いて、がく、と肩を落とすルキアを見ながら、俺は「ふーん」と内心頷く。つまりルキアは……というか、俺たちは誰かに見られたらしい。ここ真央霊術院に入学してから3ヶ月、ずっと続いている俺とルキアのこの毎朝の行事、授業が始まる前にこの人気のない裏庭で二人並んで腰を下ろして、他愛のない話と重要な二人でいる時間、そして最後の「朝の挨拶」。
ったく、誰だか知らねえが、こんな時間にこんな所をうろうろする奴の気が知れねえ。しかもルキアにわざわざそれを知らせるとはどういった了見だ。何を言われたかまあ想像は付くが、ルキアのことだ、俺みたいに堂々とする事など出来ずに赤くなって俯くだけだったのだろう。
「―――解ったよ」
あっさりとそう言った俺に、ルキアは「え?」と驚いた顔を向ける。
「お前が厭ならもうしない」
「い、厭というか……」
「ああ、解ってるよ、誰かに見られるかと思うと落ちつかねーんだろ?だがまあ、お前がそう思うのも無理ねえと思うし、別に俺はお前といられればいーんだからよ」
「……すまない、恋次」
「気にすんなよ」
俺は優しく微笑みかける。
ルキアは俺の魂胆など何も知らずに、申し訳なさそうに、けれどほっとしたように微笑んだ。
それから。
俺はルキアには触れることを一切やめた。
朝も、夕方一緒に帰れたときも、夜に窓からルキアの部屋へ入り込んだ時も。
確実に二人きりの時ですら、俺はルキアに触れない。
勉強の話、クラスの話、教官の話、先輩の話、鬼道の話、斬魄刀の話、食べ物の話、戌吊の話、etc、etc。
ルキアに触れない、それ以外は全くいつもと変わりない。
けれどルキアが徐々におかしくなっていく。
3日目で、そわそわしだした。
5日目で、俺に何かを聞きたそうにしていた。
7日目で、何かを言いたそうにしていた。
10日目には、泣きそうに俺を見上げていた。
俺は何も気付かない振りでいつも通り笑う。
時計に目をやって、「お、そろそろ時間だぜ」と言って立ち上がる。
「今日も一日頑張ろうな!……じゃ、また明日の朝会おうぜ」
まだ座っているルキアに手を伸ばして立ち上がるのを助けると、ルキアは俺の手につかまりながら、
「れんじ……」
と、小さく俺の名前を呼んだ。
「ん?」
引き止めるルキアに、俺は優しく微笑みかける。そうするとルキアは「な、何でもない……」と悲しそうに俯いた。
それにも気付かない振りで、俺は「ほら、遅れるぞ、急がねーと!」と促した。
次の日。
俺が来る前に既にいつもの場所で座っていたルキアは、俺が「よう」と声を掛けると思い詰めたように「恋次」と切り出した。
「その、私はここ最近なんだか勉強に身が入らない」
「あ?どうしたんだよ、何かあったのか?」
「うん、なんだか……調子が狂っているようだ」
「どうしたんだよ、一体。なんか原因でもあるのか?」
「うん、良く考えてみたのだが……どうやら、習慣を変えてしまった所為ではないか、と私は思う」
「うん?」
「そ、その、お前と朝の挨拶をしないと……ずっと続けてきたことを急にやめるとだな、なんだか調子が狂うというか……」
「……」
「決してお前と、その、キスがしたくて言っているわけではないぞ!ただ、勉強に身が入らないのはとても困るのだ!私は死神になるためにここにいるのだからな、勉強に集中できなくては困るのだ!」
「そうだな」
俺は優しく優しく、これ以上ない程優しく答える。
「習慣を変えてしまうのは確かに調子が狂う」
「そうだろう!そう思うだろう!?」
ルキアはがばっ!と俺に詰め寄った。その間近な顔に、俺は真面目な顔で「ああ」と頷く。
「だから、その、朝の挨拶を、また……」
「でも俺、もう何もしない習慣が身に付いちまったし」
「え?」
「だから、また朝の挨拶を復活させると、今度は俺の調子が狂っちまいそうなんだよなあ」
みるみるルキアの顔に落胆の色が浮かぶ。
……可愛い。
ニヤつきそうになるのを俺は必死でこらえ、表面上は至極真面目な顔を作る。
「じゃ、俺は何もしねーから、お前がすればいい」
「………?」
「お前は朝の挨拶をしねーと調子が狂う。俺は朝の挨拶を自分からすると調子が狂う。解決方法は?ルキアさん」
そう問い掛けると、ルキアの頬に朱が飛び散った。
俺は黙って待っている。
見守っていると、ルキアが立ち上がった。
俺の座っている、立てた膝の間に自分も膝をついて、両手を俺の肩に置く。俺がルキアを見上げる形。
「……目を閉じていろ」
そう命じられて、俺は素直に目を閉じる。
途端に、唇に感じる暖かくやわらかい感触。
軽く唇を開けてやると、おずおずと遠慮がちに小さな舌が俺の中に入ってくる。
ルキアが、自分から、俺にする。
……感無量。
そして。
俺は快哉を上げる。
作戦成功。
今回のこのお仕置きで、二度とルキアもこの至福の行為を「やめよう」などとは言い出さないだろう。
まあこうなるだろうと見越して俺はルキア断ちをしていたんだからな。なんたって俺の上手さは楓のお墨付きだし。
それを急にやめちまって、ルキアが我慢できるわけがねーんだ。
ぎこちなく舌を絡めるルキアがとてつもなく可愛くて、思わず抱きすくめたくなる。
が、もう暫く我慢。
あと少しこの状態を楽しんで。
それから、いつものように俺から「朝の挨拶」をしてやろう。
こうして全て丸く収まって、俺は自らの事態を解決させる手腕に惚れ惚れとしつつ、ルキアが俺に与える甘い挨拶を心ゆくまで、いつまでも楽しんでいた。
つい1時間半前、急激に恋ルキが書きたくなって、1時間で書いた。ので荒くてごめんなさい(笑)本当は拍手お礼SS用、お題「お見事」だったんですけど、長くなっちゃって…(苦笑)どうしよう、またお題用に考えなくちゃいけないのか(笑)
4月25日の日記に「ここ最近裏更新が続いたからお腹一杯」とか書いておいてこの体たらく。いいの、お腹一杯でも、ちゅーは別腹なんだもん!!(笑)
では、また!
楽しんでいただけたら嬉しいです。
恋次すっかりお仕置きの達人に。
……恋次の秘密能力その6。(だから嘘だってば)
2005.4.27 司城さくら