Please say the word


ルキアには悩みがありました。
それは幼なじみで家族で…多分恋人の恋次に関することです。
なぜ「多分」恋人なのかというと、ルキアには付き合っているという確証が持てないでい るからです。
手は繋ぎました。
口付けだってしました。
明るいうちからは言えないようなことだってしました。
だけど、まだ肝心なことを言って貰っていないのです。

それは「好き」という言葉。

確か恋人になるにはその言葉を言い合って、互いの気持ちを確かめ合わないといけないん じゃなかったっけ…とルキアはずっと引っかかっていたのです。
ルキアだって恋次に好きだなんて言っていないのだから、本当はおあいこなんですけど、 ルキアはどうしてもその一言が恋次の口から聞きたかったのです。

ルキアは考えました。

どうしたら恋次は好きと言ってくれるんだろう。

恋次はルキアのことをとても大切にしてくれます。だから恋次がルキアを好きなことは流石のルキアにもちゃんと分かっています。 だけど言葉だけが足りなくて、その一言がどうしても欲しくて、ルキアは悩んでいたのです。
無理やり言わせるのは望む形ではありません。ごく自然に言って欲しいのです。気持ちをちゃんと口にして欲しいのです。

ルキアはいっぱい考えました。
そしてついに良い方法を思いつきました。
題して「映画に倣え作戦(センスがありません)」です。
最近見たふらんす映画というものに出ていたイタズラ好きの女の子に見習ってみようと思ったのです。
恋次をめいっぱい振り回して、困らせて、それでも可愛いなこんちくしょう!と思わせるのです。 これならうまくいけば自分の好きと言う気持ちも伝えられるかもしれないし、何よりあの映画の真似をしてみたかったのです。
つまり、小悪魔になるのです。
ルキアは良いことを思い付いた、とほくそ笑みました。そして早速準備に取りかかったのです。

作戦決行場所は現世。
手紙をいくつか用意して、兄様にお願いして恋次の有給を勝手に取って貰って。
それから、映画と全く同じ事をしてもつまらないから少しひねりも加えて・・・。
そして準備はばっちり整ったのでした。


現世のとある公園。
恋次は急に取らされた仕事の休みと、これまた急に届けられた一通の手紙に釈然としないながらもルキアを待っていました。
昨日届けられた手紙はルキアからで、その内容はそっけなく一言こう書かれていました。

『明日の12時、現世の空座公園に来い』

恋次は訳も分からず、それでも勝手に自分の有給を取った(それを許可してしまう朽木隊長はつくづく妹に甘い兄だと思いました) のだから、何か意味があるのだろうと恋次は擬骸を用意してちゃんと現世に来たのです。

時間は12時丁度。だけどまだルキアの姿はありません。
しばらく待つか…と思っていると、ポケットに入れていた伝令神機が震えました。
開いて見るとそれはルキアからのメールで、やっぱりそっけなく一言書いてありました。

『スーパーの公衆電話に来い』

恋次は訳が分かりません。辺りを見回すとやっぱりルキアの姿はなくて、では来る場所を間違えたかと思って 昨日貰った手紙を見ればちゃんと合っています。とにかくスーパーに来いと言っているのだから行くしかありません。 恋次が現世で知っているスーパーといえば一護の家の近くのスーパーしかありませんから、そこでいいんだろう、と思い、 のったりと歩き出しました。

指定された公衆電話につくと、恋次はルキアがいないかときょりょきょろ辺りを見回しました。
でもやっぱりルキアの姿はありません。
おかしいな・・・と思っていると、いきなり電話が鳴り出しました。反射的に受話器をとると、 『恋次?』とルキアの声が聞こえてきました。
「ルキア?お前どこにいるんだよ」
でも、ルキアは何も答えません。代わりに一言、ルキアはこう言いました。
『電話機の横側を見ろ』
「は?何だそれ・・・ておいっ!!」
言うだけ言って切れてしまった電話に、恋次は?マークを浮かべるしかありません。とりあえず言われたとおり電話機の横を見ると、 なんとそこには「恋次へ」と書かれたメッセージカードが二つ折になって貼り付けられているではありませんか。
恋次はそれを開いてみると、中にはやっぱり一言だけ書かれていました。
『喫茶アメリまで来い』

どこだよそれ。

恋次は途方に暮れました。なにせ恋次はルキアほど現世に詳しいわけではありませんから、知らない場所などたくさんあるのです。 ルキアは一体何がしたいのでしょうか。
しかたがないので恋次は道行く人に喫茶アメリという場所を知らないかと聞いて回りました。 でも、恋次の外見は普通の人にとってはとても近寄りがたいものなのです。声を掛けるなり逃げる人もいて、恋次はやっぱり途方に暮れてしまいました。 結局近くにあった交番に入って電話帳で店名から住所を調べてもらい、何とか行く事ができたのです。
恋次は思いました。
「何でこんな苦労しなくちゃなんねぇんだ」
それでも律儀に付き合ってあげる辺り、恋次もルキアが大好きなのです。それを言ってあげればいいのにね。

喫茶アメリは意外と近くにありました。さて、またどうせ電話が来るかなんかだろうと思っていると、ふとお店の看板のところに さっきと同じようなカードが控えめに張り付いてるのを見つけてしまいました。
やれやれ、と思ってカードを開くと、また一言だけ書かれています。

『時計台まで来い。(空座商店街の真ん中だ)』

今度はちゃんと場所が分るように書いてあって、恋次はほっとしました。道行く人に尋ねて、また逃げられるのはゴメンだったからです。

時計台に着くと、時間はもう1時を過ぎていました。こんな遊びに1時間も付き合ってるのかと思うと何だかぐったりしますが、 まだまだ終わりそうにありません。今度はどこにカードがあるんだ、と時計台をよく調べてみると、台座の部分に張り付いていました。

『一護がよく行くアクセサリーの店』

「俺が知るかよ!!」
思わず怒鳴ると、周りにいた通行人がささっと避けていきます。でももう恋次には周りを気にしている余裕なんてありません。 ついでに一護がよく行くお店も分かりません。
確実にルキアは自分で遊んでいます。現世に不慣れな自分が困惑するのを見て楽しんでいるのかもしません。 だって、実はさっきから何となく視線を感じているのです。ルキアはもしかして・・・。

とりあえず一つ深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、伝令神機を取り出し、一護の携帯番号を検索します。
絶対出ろよ・・・
声を低くしてぼそっと呟くと、果たして一護は3コール以内に出ました。恋次は挨拶もそこそこに切り出しました。
「おい一護。お前がよく行くアクセサリーの店ってどこだ」
『あ?いきなりなんだよ』
「いいから答えろ。どこだ」
一護が不審がるのも無理はありませんが、恋次だってもういっぱいいっぱいなのです。恋次の得も言われぬ不穏な空気を 受話器越しに感じたのでしょう、一護は素直に教えてくれました。お座なりに礼を言って電話を切ると、恋次はその お店へと向かいました。
背後からはやっぱり、こそこそとした気配を感じます。
「こうなったらとことん振り回されてやる」
恋次は少し大きめの独り言を言いました。

さて、少し歩いたところで一護御用達のお店に着きました。店の前を見てみても、カードらしきものはありません。首をひねりつつも お店に入れば、恋次の姿を見るなりレジにいたお姉さんがとことこと近づいてきました。
「あなた、恋次さんですか?」
いきなり名前で呼ばれてびっくりしつつも、おぅ、と返事をすると、そのお姉さんは例のメッセージカードをポケットから取り出しました。
「可愛い女の子からの預かり物です」
くすっと笑って手渡してくれるのをちょっぴり恥ずかしい気持ちで受け取ると、その場では読みにくいのでお姉さんにお礼を 言ってお店を出ました。
店先でカードを開くと、まず最初に「安心しろ。これで最後だ」と書いてあって、恋次は文字通り安心してしまいました。 今度の指令はどこだ、と続きを見ると、

『映画館前の公園の噴水』

とありました。
最後、ということは、ようやくルキアは姿を現すつもりなのでしょうか。このカードの数々は結局何の意味があったのでしょうか。
いろいろと思うところはありましたが、行ってみれば分るか、と恋次は映画館の方へと向かいました。


週末の午後の公園はたくさんの人が遊びに来ています。恋次はきゃっきゃと追いかけっこをする子供にぶつからないように 気をつけながら噴水に向かいました。
大きな噴水は円形で、高い塔のようなオブジェの先からざあっと流れる水に午後の太陽が反射してとても綺麗です。 ルキアの姿は見えませんが、きっとどこかに隠れているのでしょう。
噴水をぐるりと一周してみると、縁のところにまたカードがありました。
最後じゃなかったのかよ・・・。
ちょっぴりうんざりしつつも開いてみると、そこには今までとは違う内容が書かれていました。

『今まで渡した5枚のカードの裏側を見ろ』

恋次は不思議に思いながら、ポケットに突っ込んであった4枚のカードを取り出して今持っている 5枚目のカードと一緒に並べてみました。二つに折りたたまれたカードをひっくり返して 裏側を見ると、なんと切れ切れの言葉がそれぞれ書かれているではありませんか! どうやら最初の一枚目から順に読むようになっているようです。続けて読んでみると・・・

『お前は』

『私の』

『ことが』

『好き』

『?』

恋次はぱちぱちと瞬きをしました。

『お前は私のことが好き?』

問いかけられて、ふと気がつけば、真後ろには彼女の霊圧が。
恋次は成る程な、とちょっとだけ笑い、振り返らずに言いました。

「ああ・・・好きだよ」

たたっと、小走りに駆け寄る音が聞こえたかと思うと、恋次の広い背中にどすんと体当たりしてくるあったかい温度。
そのまま恋次の腰にきゅっとしがみ付いてくる細い腕をぽんぽんと優しく叩いてやると、背中に懐く温度―ルキアは もっともっと、腕に力を込めました。
恋次はとっても優しい声で囁きます。
「随分回りくどい事するじゃねえか」
「・・・そうでもしないと、お前は言ってくれないじゃないか」
拗ねたように言うルキアの表情は恋次からは見えませんが、顔をピンク色に染めて、すごくすごく幸せそうです。
「私のことが好きか?」
ルキアはもう一度聞きました。
「ああ」
恋次はすぐに答えてくれました。
「たいやきよりもか?」
「・・・ああ。(お前、そんなんと比べられていいのかよ・・・)」
「一護よりもか?」
「何でそこであいつが出てくるんだよっ!!;;」
「だってお前たち、仲がいいじゃないか」
「それはダチとしてだろうが!」
恋次は深々と溜息をつきました。折角いい雰囲気だったのに、何だかぶっ壊れた感が否めません。
だけどルキアはご機嫌です。だって、恋次に好きだって言ってもらえたのですから。苦労して計画した甲斐がありました。
恋次は「ったく・・・」ともう一度溜息をつきました。
「俺がどんだけ苦労したと思ってるんだよ」
「ふふっ、お前はそうやって、ずっと私を追いかけていればいいんだ!」
なんとも偉そうに、だけどとても嬉しそうにそう言うルキアに、恋次は降参するしかありません。
とっても疲れたけれど、いっぱい歩き回ってルキアを探して、そういえば言った事がなかった好きという言葉を伝えて。
恋次もちょっとだけすっきりしました。
だけど振り回されっぱなしはどうにも癪なので、恋次はこの我侭な猫みたいなお嬢さんに意趣返しがしてやりたくなりました。
「で、お前はどうなんだよ」

「ん?好きだぞ!」

ご機嫌なお嬢さんはご機嫌なままの口調であっさりと言ってくれちゃいました。
「・・・・・・ありがとよ」
もっと照れて、言え言わないの攻防をすると予想していたのに、思いもかけず素直なルキアの言葉に、恋次の方が照れてしまいました。
「どういたしまして、だ!」
背中に抱きついたまま弾む声で言うルキアに、今日は完敗だな、と恋次は白旗を揚げるのでした。

こうして、ルキアはようやっと恋次のことを恋人だと、しっかり認識する事ができるようになったのです。



「あいつら・・・現世に来て何をしてるのかと思えば・・・公共の場で恥ずかしいことしてんなよ・・・」
公園の片隅でうっかり抱き合うルキアと恋次を見つけてしまった一護は、他人のフリをしよう、と決め込むのでした。


END

ア●リの真似をするルキアと振り回される恋次、でした。我ながらこっぱずかしい話です・・・。
因みにメッセージにある「スーパー」「喫茶」「時計」「一護」「映画館」の 最初の一文字を読むと、「すきといえ」という2重のメッセージになっています。
ルキ恋とも呼べないような内容ですが、お祭りに再度参加できてよかったです。ありがとうございました。


One Way   桂花