*************
崩れ落ちてゆく 積み上げた防壁の向こうでは
そっとあの日の僕が笑っていた
運命は不思議だね 錆付いて止まっていた時が
この世界にも朝を告げてくれるよ
*************
「恋次!」
「うおっ!!」
六番隊執務室。
俺は、得意ではない事務仕事に忙殺されていた。
旅禍侵入から始まった今回の騒動は、身内の不祥事まで暴露してひとまず決着した。
結局何一つ解決しちゃいないが、とりあえず残された人員で建て直しを図り、
乱れた秩序を元に戻すよう総隊長からの達しが出たのだった。
「何か」が動き始めるまでの、ほんのしばらくの休息。
「ルキア、てめーどっから出てきてんだ…」
背にしていた窓が勢い良く開き、危うく後頭部を窓枠に殴られるところだった。
「兄様に伺ったら、貴様はここだろうと教えてくださったのだ」
「そうかよ…で、何の用だ?」
しばらくぶりの再会はまったくもって不本意な形だったが、これも任務だと遂行した。
まともに顔を見たのは何十年ぶり。
捕らえて牢に留置して、さらに懺罪宮へ移送するときも、
俺は自分自身にひたすら任務だと言い聞かせた。
それでもコイツが−−−死んだ目をしているのを見たときは辛かった。
現世で見たルキアは、確かに人間みたいな面してやがったが、
時々遠くから見ていた冷めた顔ではなく、戌吊のころのように目には力があった。
だから俺はあの時、ルキアに旅禍の情報を流したのだと思う。
例え、コイツの力に、希望になるものが旅禍だったとしても、
俺はもうルキアにあんな顔はして欲しくなかった。
「行きたい所があるのだ。恋次、出られるか」
「あー無理」
「むっ、即答するのか」
窓の桟にあごを乗せて口を尖らせているルキアに、俺は手を振って見せる。
どう見たって無理だろう。
一護達のせいばかりではないが、とにかく事後処理が今ピークなんだ。
俺は書類の山を指差して言ってやった。
「あのなぁ、俺は仮にも副隊長なんだぜ?平隊員と違って忙しいっつーの」
「ほう…それは失礼した副隊長殿。せっかく兄様が副隊長殿を連れ出す許可をくださったのだが、
そんなに副隊長殿が実務にお励みになりたいのならば仕方がない」
「は??」
「兄様も幸せであられる、こんなに任務に忠実な副官をお持ちで…。
では失礼いたします、副隊長殿」
「ちょっ…待て!ルキア!」
窓から腕を伸ばして、くるりと回れ右したルキアの肩をつかもうとすれば。
「うわっ!!」
わかっていたかのように、ルキアはひょいとそれをかわす。
見事に手は宙を切り、勢い余って身を乗り出していた俺は問答無用で地面へと落下した。
「なんだ、出て来られるではないか、副隊長殿?」
「てンめー…」
ここが一階で良かった…なんてことが問題ではない。
死覇装についた砂埃を払って立ち上がる俺を、コイツはさも満足げに見ている。
「こっちだ、付いて来い恋次」
「おい待てって!俺草履はいてねえよッ」
こんな他愛もないやり取りは、ずっとしていなかった。
副隊長の地位を得てやっと「口実」ができたかと思えば、鉄格子の向こうとこちらという関係。
それでもルキアという存在が戻ってくれば、まるで昨日もそこにいたかのように、
俺に向かって可愛くねえ口をききやがるんだ。
****************
すたすたと軽快に歩を進めるルキア。
隊舎を出てルキアの後を付いて行けば、見える景色にどこへ行こうとしているのか予想がついた。
「どこ行くんだ?」
わかっていても、ルキアに問う。
「もう少しだ」
「そうかよ…」
五十年近く前の朝、野宿して入学式を迎えた。
それまでとは、全く違う生活の始まり。
仲間が一人、また一人と減っていっても、共に寝起きし、
水も食料も全て分け合っていた。
寒ければ互いの体温だけが拠り所だった。
そんな生活は決して楽ではなかったが、いつでもお互いが一番近くに感じて安心できた。
−−−いつからだろう、少しづつ隔たりを感じたのは。
組が違うから、経験する実習も授業の内容も少し違う。
生活も、部屋を宛がわれて別々に寝起きする日々。
いつでも一緒にいて、同じものを見ていられなくなった。
それを埋めたくて、会えばその日の出来事や授業の内容を事細かに話して聞かせた。
最初のうちは興味深い様子で聞いていたルキアだが、そのうち「そうか」とだけ相槌を打つようになった。
−−−それを決定付けたのは、ルキアに降って湧いた養子話。
−−−否、手放しに喜んだフリをした俺。
ルキアを手放したあの時から、朽木白哉を超えてみせると誓い、ひたすら上を目指した。
いや、それは事実だが本音ではなかった。
そう気付いた時はもう、俺の手の届かないところにルキアはいたんだ。
護艇に入隊してからも、ルキアとの間に積み上げられていた壁は強固なものとなり、
超えると公言していた朽木白哉にですら悚れを覚えた。
見事に「組織」に組み込まれてしまった自分を、俺は情けなく思う間もなかった。
一護に斬られるまでは。
俺だって、あいつのあの「眼」を持っていたはずなんだ。
あんな現世のガキにたたっ斬られるまで、そんなことも忘れちまっていたなんて。
一護が、俺の積み上げた壁なんか簡単に突き崩してしまった。
そもそもそんなものがあったかどうかなんて、あいつが知る訳がない。
それでも、あいつは俺にルキアを任せた。
腕の中で謝るルキアに、
コイツも積み上げていた壁が、やっと、崩れていくのを感じた。
***************
「懐かしい…」
吉良の両親の墓の前。
もとい、墓の横の茂みと一本の樹木。
「貴様は止めるのも聞かずに木の上で寝て、見事に墓石の上に落ちたな」
「あー、そうだっけか?」
くっくっと喉を鳴らして笑うルキアに、仕返しを込めて髪をくしゃりと握ってやる。
「なにをする」と振り払う手とは対照的に、その表情は楽しそうだ。
「あの頃は…こんなことになろうとは予想だにしなかった」
「…予想できてたら怖ぇえって」
「そうだな…」
こんなこと。
朽木家の養子になること、現世で力を失うこと、双極に磔になること、
現世の人間の仲間ができること…。
「また、お前ともこうして話せる日がくるとはな」
その言葉に、はっとしてルキアを見れば。
視線はまっすぐ正面を見据え、静かだが意思のある表情をしていた。
「おう…」
「無駄に出世ばかりしおって」
「なっ…!」
ふっと顔を上げて、俺を見上げたルキアの優しい眼。
「おめでとう、副隊長殿」
何のために力を欲した。
何のために地位を手に入れた。
何のために、俺はルキアを取り戻した…?
「今更、祝われることでもねえよ」
何のためでもない、俺が俺のために全てしてきたこと。
結果が席官であれ副隊長であれ、コイツが俺の隣にいてくれれば、
後はどうだって良かったんだ。
「素直に礼も言えぬのか」
「バーカ、どうだっていいんだよそんな事」
「そんな事とは何だ!」
「そんな事」の意味がわかっていないルキアの頭を、俺は黙って引き寄せた。
「ありがとな。でも、マジどうでもいいんだよ…そんな事は」
抵抗するでもなく、ただ黙って引き寄せられたルキアがくすりと微笑むのがわかった。
「そうか、ならばお祝いにこの後食事でもと思っていたのだが…
それも無駄になってしまったな」
「それは有難くいただきます」
「都合の良い奴め」
お互いの目を見て笑みを返す。
本当に、またこんな日がくるとは思わなかった。
そう考えれば、これまでの時間も悪いものではないかも知れない。
少しばかり遠回りし過ぎた感は否めないが。
またこうしてルキアの側で、コイツを護っていければそれでいい。
「行くぞ恋次、いつまでこうしている気だ」
そう言うとさっと俺の手から離れたルキアに、少しばかり名残惜しさを感じたが、
またいつでもこの手で触れられると思えば何ということでもない。
来た時とは違い、俺はルキアと並んで歩き始めた。
ルキ恋って何ですか?!
書けども書けども恋ルキになるんですけど!涙
いっそのこと本当にSMプレ>>>退場
お嬢様の言うがままに後を付いて歩き、
お嬢様のことだけを考え、
お嬢様をお護りすると改めて誓う下僕っていうことで、
ご了承いただけませんでしょうか。。。
なんせ、鰤ハマリしたのが最近な人間なもので、今更な話ですみません。
最近改めてALを聞いた、某バンドさんの曲から題名とネタをいただきました。
曲名を和訳しただけでそのまんまです。
時期的にもちょうどよろしいかと思いまして。
司城さま
この度は、お誘いくださりありがとうございました。
なんだかんだ言いつつも、こういう祭りのノリは楽しいですね。
同じ阿呆なら踊らにゃ損々〜♪
お目汚し、大変失礼いたしました!
五十嵐