一人死んだとき、みんなで泣いた。
水も飲めず物も食べられないくらい、みんなで泣いた。

二人目が死んだとき、恋次は泣かなかった。
血が出そうなくらい拳を握りしめて、墓をじっと睨んでいた。
私以外は、そんな恋次が分かるような、そして苦しそうな表情をして、やっぱり私と一緒に泣いた。

三人目が死んだとき、死神になろうと恋次が言った。
恋次は泣かなかった。
私だけやっぱり壊れたように泣いた。
自分で自分が分からないくらいに泣いた。

恋次は、ずっと、空を見ていた。



瀞霊廷にもうすぐ着く、というところまで来て、大分治安も良くなって幾分落ち着いた旅になっていた。
墓と、いや、あいつらと別れるのは、寂しくもあったけれど。
だけどあいつらならばこの選択を間違いだとは言うまい。
きっと、死神になれるよ凄いなぁ!と笑ったに決まってる。

最も、あいつらがいたら死神に、なんて思わなかっただろうけど。

楽しかったあの日は遠い。
歩いてきた距離よりずっと。




「………恋次」
「何だ?」
恋次との力の差が、この旅の間で明確になった。
近道じゃないかと獣道を指しても恋次は絶対それを選ばない。
遠回りをしてでも少しでも安全な道を選ぶ。
恋次一人だったなら、どんな危険な道でも行けただろうにと思う。
いつも危なくなったら私を背で庇う。
大きな背で偉そうに庇うから、私が攻撃する機会は少ない。
そうして痛いのも辛いのも苦しいのも全部何も言わずに堪える。
私に向けるのは、笑顔だけ。

恋次は強くなった。けど、だけど。
恋次、お前、まだ泣けずにいるだろう?ずっとずっと。

「…………お前は意地っ張りだから、きっと変わらないのだろうが」
「意地っ張りで悪かったな」
「これからも泣きたくなっても泣けないままなのだろうから」
「…………」
息を飲むのが分かった。
恋次はずっと、苦しいままで、何も吐き出せずにいる。
「そんなときは私のとこに来るのだぞ」
「………泣かねぇよ。俺は」
「分かってる。だから、お前の代わりに私が泣いてやる」
恋次がちょっと目を丸くして、意味ねぇよそれ、と呟いた。
「恋次は人より大馬鹿に出来てるのだから、私が泣いたら頭を撫でて、それで自分も泣いたような錯覚に陥ってればいいのだ」
「…………………」
「いつだってお前の代わりに泣いてやる。お前が辛いことなら、私にとっても辛いことだ」

恋次は何も言わなかった。
ただ、大きな手で頭をくしゃくしゃと撫でた。
髪の毛が乱れてしまうから嫌だというのに。
背を伸ばして恋次の頭を掴んだ(精一杯やってやっと届く、というのが腹が立つ)
「うを!?」
油断したせいかいきなり猫背(どころではない)の姿勢にされて恋次はじたばたしていた。

あとで聞いたら転びそうだったのを必死でバランスを取っていたらしい。
………別段転んだって仕方もないだろうにと言ったら「俺って本当にカワイソウ」と小さく呟いていた。ワケが分からない。

とにかく触れば火傷するかもしれぬほど赤い頭をひっつかんで私の肩に乗せる。
恋次の体勢はあまり楽そうには見えないが、それは我慢して貰おう。
「泣きたくてもお前が泣かないから!意地っ張りの大馬鹿者だから!」
「……………馬鹿馬鹿言うなよ」
「泣くのが格好悪いと思っておろう」
「………男が泣くのは、な」
もそ、と首の方で喋られるのはちょっとくすぐったい。
失敗だったかもしれない。だけど今更突き飛ばすわけにもいかないだろう。
いつもならば叫んで離れそうなものなのに、折角大人しくしてるし。
「泣く代わりにここに来たらいい。………お前がこうしたら、代わりに私が泣いてやる」
「……………うーんと、別の意味で」
ごす
頭を掴んだまま、思いっきり蹴った。
「分からないが何か妙なことをのたまっただろう貴様」
「…………つぅっ……分からないなら蹴らないでクダサイ」
そぉと手の力を抜いて顔を見ると、笑っていた。


「キツかったら、ここに来たらいいんだな?」
「あぁ」



「……恋次、でもいつか」
「?」
「嬉しくて、泣けると良いな」

「…………………あぁ」



「本当に、馬鹿だな恋次は」
頭を離すついでに耳に口づけると、慌てた恋次がじたばたした挙げ句、転んだ。

「おま、何、今、その……!!!」
真っ赤になって、何だかフクザツに色んな表情になっていた。
面白い。
こんなに表情という物はくるくる一気に変わる物なのか。


………………またやってみたらまたくるくる変わるのだろうか。


「さ、もう少しで瀞霊廷だぞ。恋次」
転んだまま私を見上げる恋次に言うと、何故だかがっくりと肩を落とした恋次が何やらぶつぶつ呟いてのろりと立ち上がって、おう、と気の抜けた返事をして歩きはじめた。



肩が落ちた背。
それでも何かあれば私を守るのだろう。
どんな辛いことも身の内に閉じこめて笑うのだろう。
私に泣きつくことなど、無いのかもしれない。そう思う。

けれど。


この大馬鹿は、私に任せろ。
いつかちゃんと、墓の前で大泣きさせてやる。
嬉し涙だって、見せてやる。



約束だ。



戌吊りの方角を振り返った。
恋次は少しだけ同じようにそちらを見て、行くぞ、と柔らかく言った。




ずっとずっと一緒にいて。
どんな辛いことも楽しいことも悲しいことも嬉しいことも一緒に味わえたら。

それが一番の幸せ。










申し開きもございません。趣旨に添っているか不安でなりません。
ルキアが自覚してるかしてないか微妙なのですが私が書くルキアさんの中では頑張ってる方かと……。

読んで頂きありがとうございます!


Ad lib   越後屋利平