「あばらい・れんじ?」
赤い髪の毛が大きく揺れた。
火のようだ。
何故かこの色を見ると元気になれる。
「どっか間違ってるかもしれないけど多分」
生前の記憶は断片的だ。私にはその断片すらない。記憶を持つこと出来ない程幼い頃に来たせいだろう。それも、ここでは珍しくも何ともない。
「………私には無い。ただの『ルキア』だ」
恋次は持っていて、自分は持ってない。それが悔しくて言うと恋次は何を思ったか幾つもの言葉を地面に書き出す。
「何だ?何をしておる」
「決まってる。名字だ。お前の。どんなんがいい?」
思い付く言葉だろう、手当たり次第という感じで次々と地面に書いていく。

「馬鹿者。……食い物ばかりではないか」


言えなかった。
欲しい名字があったこと。
私は臆病者で弱虫だから。









「『朽木』ルキア……か」
恋次が呟いた。
「遠い名だと、思ってたんだ」
病室といっても恋次は驚異的に治りが早くすぐにでも退院出来るだろうと言われた。
私のせいで傷が増えるばかりの体。
痛かっただろう。私を守れば恋次が傷つくだけだ。
守っていてくれたことが嬉しい反面、傷つくだけの恋次に何と言えばいいのか分からない。
傷を見て何を言えばいいのか考えていると恋次は決まって、悪い、見て気持ちいいもんじゃねぇよなぁと笑うのだ。
私のせいで出来た傷なのに。
まるで転んで怪我したように言う。

「………卍解を、習得したそうだな」
「天才恋次様って呼んでもいいぞ」
にやりと昔のように笑う恋次に救われる。
いつもいつも救われてばかり。
「馬鹿者!!兄様に手も足も出なかったくせに!」


兄に勝って欲しいと思う。

兄が怪我をするのは考えられぬし、もう見たくないのに。


私はわがままだからいつも矛盾している。



「いつか届くさ。絶対。一護が届いたんだろ?ちくしょー俺の後だからって言ってやる」
死闘だったはずなのに。兄様が驚いたほどの戦いだったそうなのに。
恋次は笑ってただの喧嘩のように言う。



「『朽木』って名前…………そう遠くないと思えるようになった」
ぽつりと恋次が天井を見上げて言った。
ずっとずっと、お互いに感じていた距離は名前が作ったもの、と言ってもいいのかもしれない。
「よく考えたら、隊長の名であるけどお前の名でもあるのにな。………遠いとか言っちゃあ情けねぇ」


「馬鹿者。馬鹿者。……私は、どんな名より」

恋次が私の頭に手を置いた。
大きい手。
落ち着くはずなのに落ち着かない。


「………待てるな?」
髪の色程朱くなった顔。

「………………………待ってやる」
涙が出そうで、見られたくなくて頬を抓った。


「痛!たたたっ!こらっ!」
「嘘じゃないな!嘘じゃないな!?
「だから何でお前はいつも自分じゃなくて俺にするんだ!!!嘘じゃねぇよっ!」



言わずとも分かってくれたのが嬉しかった。

信じられない程に。


子供の頃から欲しかったのは。





あばらい

その名前。






言ったからには、いつかくれるな?
嘘じゃないって、言ったのだからな?











プロポーズ気味になってしまった気が…………うわわわわ。
ルキ恋になっていますでしょうか……?



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