愛し君に 花を贈ろう
君が笑んでくれる様な 美しき 君に良く似た花を贈ろう
連理の花よ 君の側にいれるよに どうか笑顔で咲き誇れ


=連理の花枝、比翼の鳥は雪積もるその枝に留り=


花も咲かずの睦月十四日 この日 瀞霊廷には雪が降った
白い建造物を より白く染め上げる雪は 朝日を浴びて どんな宝石よりも美しく輝いた
濃紺の瓦の上に 朽ちた樹木の枝に 雪は降り積もる
そんな寒い朝 一人の少女が華やいだ声をあげる

「見ろ!恋次!雪が積もったぞ!!」

雪の上で遊ぶ雀よりも尚可愛らしく 霜に包まれる椿よりも美しい少女が 笑う 笑う
恋次と呼ばれた 赤い髪の大柄な青年は寒そうに懐手をしたまま 小さく微笑んだ

「ああ。すげぇ積もったな」
「しかも今日は私の誕生日だ!まるで空が祝ってくれた様だな」

そういうと少女は 手袋もはめていない 小さな手に 雪を掬った
陽の光を浴びて 純白の雪は 一層美しく輝いた
  だが それとは対照的に 冷たい雪を乗せている 小さな小さな彼女の手は赤みを帯びていた
頬は歓びに上気して ほんのり薄桃色に染めていた

「ほら!見てみろ恋次!こんなに綺麗な雪だ!」

呼びかけられた青年は 明るく子供の様に笑う少女を見て 幸せな気持ちを噛み締めていた
目の前に居る 小柄な少女の肩を 思わず抱きしめたくなる程 愛おしく思った
が そんな思いはおくびにも出さず 青年は代わりに少女の手を優しく握った

「ルキア。手にしもやけができるぞ」
「…あったかい……。恋次の手は、大きいな…」
「バーカ。お前の手が小さいんだよ」
「あぁ…そうかも知れないな……」

青年の手の中にある 氷の様に冷たく白い 少女の小さな 小さな手
ずっと昔に 離した手が 今 この手にある この冷たさは 確かにある
もう二度と 離さないと誓いながら 青年は 強く 優しくその手を握る

「そういえば…流魂街に居た頃もこうして、手を温め合ったな…」
「あん時は手袋なんて洒落たモンは手に入んなかったからな」
「そうそう…。なのに"雪が降った!"等と言って大喜びして、雪遊びをしたら全員しもやけに…」
「そういや、そんな事もあったな」
「一番長く遊んでいた私が、酷いしもやけになってしまったのをお前が温めてくれたんだ…」
「…そんな昔の事、忘れちまったよ」
「私は…今でも思い出すぞ……」 

そういって目を閉じる少女 早朝の雪道を歩く二人は 比翼の鳥の様に 仲睦まじく 愛おしく
やがて少女は手を離すと 小鳥の様に軽やかに 雪の上を走った 本当に楽しそうに
青年もその後を追い さながら子供に戻ったかの様に 二人は雪の上で転げまわった
やがて 走って走って 二人は小高い丘の上で 寝転んだ
綺麗な雪に 二人分のくぼみが出来る 澄み渡った青空を見上げて ひとしきり 笑い合った
その軽やかな 幸せそうな笑い声は 鳥のさえずりに似て 笑みにほころぶその顔は 花より美しく

「何だか久々に…心の底から笑えた気がした…」
「オメーは笑わなさ過ぎなんだよ」
「それは恋次も同じであろう!いつも目つきが悪いではないか!」
「なんだと!てめぇ!……あーもう!お互い様だな」
「あぁ…。誕生日の日ぐらい、思い切り笑わねばな」

感慨深げに寝転んだまま 空を見上げる少女の横で 青年は飛び起きた
そして 懐から小さな紙包みをとりだし 一瞬ためらう様な素振りを見せた
  けれども 青年は意を決してそれを投げた 天高く 少女の方に

「いきなり何を寄越すのだ!恋次!びっくりするではないか!!」
「やるよ!」
「何をだ?」
「……誕生日プレゼント」
「この紙袋か?…何というかプレゼントにしては随分素っ気ない外観だな…」
「う、うるせぇよ!つべこべ言わずに有り難く受け取れよ!」

返事代わりに小さく笑った少女は 紙袋を開いた
中に入っていたのは 雪の様に白い 一組の手袋 白地に薄桃色の花をあしらった
彼女のしもやけた手を温める その手に似合うであろう 可愛い手袋
そっと手にはめてみる少女 それを不安そうに見つめる青年

「…ありがとう、恋次。とても暖かい、素敵な手袋だ……」
「………気に入ったか?」
「ああ!勿論だ!」
「そ、そうかよ。そりゃあ良かった!な、中々似合ってんじゃねぇかルキア!」
「ところで副隊長殿。こんな所で遊んでいて良いのか?」
「何だよ出し抜けに…」
「後数分で、定例の朝会が始まるぞ」
「マジかよ!?やっべぇ…じゃあな、ルキア!俺、行くわ!」
「ああ!しっかり走らないと遅刻するぞー!面白イレズミ眉毛殿ー!」
「うっせー!」
「恋次!」
「なんだよ!」
「ありがとう」

走り去る少年は背中を向けていた その頬は赤く染まっている 
やがて少女は一人になる そして手袋を見つめて呟いた

「あやつめ…。この模様から見ると、両方とも右用ではないか…」

そう言いつつも 彼女の顔はほころんでいる
  手袋を手にはめ 冷えきった頬に当てて目を閉じる その温もりは 格別だった
何をあげようかと 店で迷っている恋次の姿が目に浮かぶ 贈り物用の包装をする事すら忘れて
只 この手袋を渡したかったのだろう 彼女に似合うと思った 白い手袋を
一面の銀世界を思わせる様な白地に 一輪の麝香連理草が咲いている 繊細美の手袋を
成る程 それは彼女の小さな手を優しく包み込んだ 青年の手の様に 暖かかった

「恋次…本当に有難う」

やがて少女が丘を去った後 二人の雪型の丁度真ん中に 麝香連理草のつぼみが 顔を出した
雪が溶ければ満開の 麝香連理草は咲くだろう
少女の小さな白い手を 彩る あの手袋の花の様に

連理の枝に花咲く頃 雪ぞ積もるその枝に 比翼の鳥が留る

=the end=

2007,1月某日 ルキ恋祭り~お嬢様と下僕 に捧ぐ





 
えー…。未熟者のくせに恐れ多くも司城さくら様主催のルキ恋祭りに参加させて頂きました
企画初参加の小心者ルキアファン、幻灯寿夜と申す輩にございます。
オチが何とも言えず微妙な物になってしまいました。元ネタは私が実際やってしまった事です。。
ついうっかり右用を二つ買ってしまいました。後で左用を二つ購入。万事解決…ではないですね。
余った一組の手袋は誰にあげようか思案中です。
ちなみに恋次は間違いに気付いていないので、私の様に手袋を余らせたりはしてません。(笑
文中に出て来た『麝香連理草』とは『スイートピー』の和名です。
1月14日の誕生花である『スイートピー』。花言葉は『優美、繊細、デリケートな美』
暖かい気持ちが皆様に伝われば作者としても本望です。
果たしてこれがルキ恋なのか疑わしい限りですが、出品させて頂きました。
ここまで拙い作品をお読み下さいました画面の前に皆様に、篤く御礼申し上げますと共に
御目をお汚しした事、深くお詫び申し上げます。(土下座
本当に最後までお付き合い頂き誠に有り難うございました。

そして素敵な企画を考案・実行して下さった司城さくら様に無上の尊敬と感謝を!
司城さくら様!素敵な企画を本当にどうも有り難うございました!
これからも是非是非!何卒!頑張って下さい!

お嬢様と下僕 素晴らしい祭りになる事を祈っています




Hide-and-seek of Clomo clown   幻灯寿夜