午前3時。朽木家の娘が俺の部屋に訪れた。俺に抱かれる為に。

「たやすく罠に落ちるものだな、阿散井恋次」

事を終えたばかりの、まだ上気する肌は汗を光らせ、
紫の瞳も夜明けの雫のように清かに煌めいていた。
その手には夜の名残のように漆黒の銃。

「朽木家を脅かすほどの巨大な組織は、
 お前の本家くらいだ。お前のところも世襲制だったな?
 お前が受け継ぐのだろう?…御曹司殿」

「まあ兄弟もいねえし、そうだな」

「では死んでもらう」

「……ああ、そう」

「…………………」

なかなか引き金を引かないルキアの銃は、小さく震えてるように見えた。
まだ人を殺したことが無いらしい。予想通り。

カチリ。

俺の歯が銃口に当たり無機質な音をたてた。
ルキアは驚嘆し、目を見開いたまま絶句していた。
青いなあ、お嬢さん。どうせ独断だろ?
あの朽木の兄さんが、あれほど大切にしているお前を
刺客に使うわけがない。
ましてや、俺をそれほど見縊っている奴でもない。
ルキアのようなお姫さんに、殺られるわけがねぇだろ?
この俺が。だから長年、牽制し合ってるんじゃねぇか。

「はやく引けよ、撃ち方がワカラナイとか言うなよ」

ルキアの爪から、血の雫が僅かに零れた為に、
数分前に出来た俺の背中の傷口がチリチリと主張を始めた。
いっそ、もっと痛めばいい。
お前が俺に付ける傷なら、どんなに深くても構わない。

「…なぜ返り討ちにしない!」

ルキアの大きな瞳から涙が決壊して、とめどなく流れた。

「それが本当の、お前の狙い?」

「…なぜ、お前の手で殺してくれない」

ルキアは子供のように嗚咽を繰り返すばかりだった。