「調子悪ぃんだったら、何で保健室行くなり早退するなりしねぇんだ」
 呆れたような、怒ったような黒崎君の声に、私は顔の半ばまで布団で隠して「だって…」と言い訳してみた。
「病は気から、って言うでしょ?」
「厳然たる事実が横たわっているだろーが」
 黒崎君は私の目の前で体温計を振った。そのデジタル表示は間違いようも無く「38.5」と読み取れる。
「…ごめんなさい」
 私は更に布団に隠れて謝った。
 私がちゃんと保健室に行っていたら、黒崎君は偶然道であっただけの私をおぶって自宅である病院まで連れてくるという苦労をしなくてすんだのに。
「とりあえず今日は泊まっていけ。ベッドは有り余ってんだからよ」
「んー…今日は帰るよ」
 叔父さんたちに生活費を援助してもらっている身とすれば、やっぱり無駄な出費は出来るだけ避けたい。入院費が一日いくらかかるか解らないけれど、私にとってその金額は決して安いものではないだろう。
 突然おでこに軽い痛みが走って私は目を丸くした。目の前で黒崎君が不機嫌そうに私を見ている。
「デ、デコピン…?」
「家帰ったって一人なんだろーが」
「大丈夫だって、熱には強いんだよ、私」
 再びおでこに、今度は激しい衝撃。
「いたたたた…」
「とりあえず、なんか食い物持ってくる。…お前は俺の客で入院扱いじゃねーから、食事は俺の妹の作ったもんだけどいいよな?」
 ぶっきら棒に黒崎君はそう言った。
 あ、どうしよう。
 なんか…泣きそう。
「ありがと…」
 そう呟くと、黒崎君は聞こえない振りで部屋を出て行った。何故黒崎君が聞こえない振りをしているかわかったのは、耳がすごく赤くなっていたから。
 黒崎君はいつも人の気持ちを考えてくれる。
 不機嫌そうな態度の裏で、いつも優しく人を見ているんだ。
 ぶっきら棒な口調は照れ隠し。
 …どうしよう。
 どんどん病気が重くなっていくのが解る。
 回復不可能なくらい、もうこれは不治の病かもしれない。
 ……黒崎君が好き、っていう恋の病。
「えへへへ、なんちゃってー!私って詩人!!」
 枕を抱えて悶えたら、ぺんと頭をはたかれた。
「病人が何してんだ」
「わあ!」
「何が『わあ』だ」
 トレイに乗せたご飯を机において、黒崎君は「全く」と溜息をついた。
「どうだ、寒くないか?」
 それでも私を気遣ってくれる。
「……あったかいよ」 
 黒崎君の心が。
 貴方の優しさが嬉しくて、胸がとても暖かいよ、黒崎君。
 

 大好き。


「なに変な顔してんだよ」
「何でもないよ!」
 呆れ顔の黒崎君に、私は「えへへ」と笑って見せた。






一護は照れ屋だと思います(笑)