「お前らっていつも喧嘩してるよな」
 副隊長会議が終わった副隊長たちは、お茶を飲みながら同時間に行われている隊長会議の終了を待っている。
 その狭間の時間の中で、六番隊副隊長の阿散井恋次と、先日十三番隊の副隊長となった朽木ルキアが、些細なことで口喧嘩を始め、それを頬杖をつきながら眺めていた檜佐木修兵は感心したように呟いた。
「顔を合わせると必ず喧嘩してるよな」
「まあ大概原因はこいつですけどね」
 隣の席の小柄な身体を指差して恋次がそう言うと、「何だとっ!?」とルキアがいきり立つ。
「ふざけるなっ! 原因はいつもお前だろう!!」
「こうやって些細な事でも怒りだすから喧嘩になる」
 ルキアの怒りを流しながら檜佐木にそう言うと、檜佐木は「ふーん」と納得の声を上げた。それにルキアはいささか傷ついた顔をする。
「そんなこと……でも、恋次がいつも私を怒らすような事を言うので……」
 これでは自分が怒りっぽいと認めてしまったようなものだ。しりすぼみになるルキアの言葉に恋次は「お前は人より沸点が低いんだよ」と肩を竦めた。
「そんなことあるかっ!」
「ほらな」
 怒りだした途端に指摘され、ぐっと言葉に詰まる。
 確かに思い返せば、イヅルは檜佐木や恋次に何を言われてもあまり怒らない。乱菊も日番谷隊長に嫌味や苦言を言われても何処吹く風だ。恋次も檜佐木に何か言われても怒りだす事はないし、やちるも剣八や一角、弓親あたりに何を言われても怒っているところを見た事がない。ネムに至っては相当酷い事をマユリに言われているが、全く怒るところを見た事がない。
 ……自分は短気なんだろうか。
 考え込むルキアの周囲で、乱菊が「怒ると皺が増えるわよ?」と言い、イヅルが「さすが年の効……」と呟いた瞬間、乱菊の細い指がイヅルの頬を摘まんで捻り上げた。
「んん? 悪いお口はこれかな?」
「ちょ……っ、いたたた! 爪! 食い込んでます爪! 怒らないんでしょ、皺が増えるんでしょう!?」
「怒ってないわよ? これは教育的指導って奴よイヅル?」
 うふふふ、と微笑みながらぎゅうぎゅうと頬をつねる乱菊をやや青ざめながら見守る恋次と檜佐木の前で、ルキアは「……よし!」と屹と顔を上げた。
「私はもう怒らぬ!」
「……無理だな」
 あっさりそう言った恋次にかっとなりかけるが、どうにか抑えてルキアは「無理ではない」と笑顔と共に言い切った。
「もうお前に何を言われても怒らぬぞ。そうだな、人前で喧嘩するなど子供じみている。これからは大人の対応で行こう。副隊長になったのだし、他の者への模範とならなければ」
「ふーん、怒らねえんだお前」
「ああ、貴様が何をしてももう」
 その言葉が突然途切れたのは、ひょいと恋次が唇を塞いだからだ。
 自身の唇で。
 あまりにもごく普通に、何の気負いもなく。
「……………」
 その時間、30秒。
「き…………貴様ああああああああああああ!!!!」
「怒るじゃねえか、嘘吐きめ」
「怒るに決まってるだろうがあああああっっ!!」
 顔を真っ赤にして(それは怒りの所為か恥ずかしさの所為かもしくは両方か)恋次の胸倉を掴むルキアと、「怒らねえっつうからやったのに」と文句を言う恋次の二人を残して一斉に副隊長たちが立ち上がる。
「はいはいはいはい、一生やっていて下さいよ」
「あー馬鹿らしい」
「犬も食わないってやつですね」
「でもれんれんって犬だよね!」
「全く神聖な会議室で何をやってるんだか……風紀の乱れを正すよう、総隊長殿に言わなければ……」
「す、すごいよね! 見ちゃったよいいのかな?」
「見せたいようですのでいいのではないですか」
「仲良くていいよね、羨ましいなあ」
 立ち去る副隊長たちに二人は(というよりルキアは)気付くことなく、「変態露出狂破廉恥莫迦阿呆間抜け眉毛!」「んだよ怒りすぎだ! 怒らねえって言ったそばから怒ってんじゃねえか、この法螺吹きめっ!」と例の如く喧嘩をし続けていた。