嫌な予感というものほど的中する確率は高い。そう言っていたのは誰だったろうか。
昨日から抱いていたその「嫌な予感」を見事に的中させてしまった俺は、十三番隊隊舎の中で一気に蒼ざめた。
その俺の様子に気付いているのかいないのか、よくルキアと一緒にいるのを見かけている「清音」という名のルキアと同じくらい小さなその女は、「阿散井副隊長は朽木さんとどういったご関係ですか?」と興味津々で聞いてくる。そのくるくる回る瞳が、リスやハムスターを思わせた。普段の俺ならばルキアと親しい人物には積極的に仲良くなろうと試みるが、今の俺には勿論そんな呑気な質問が聞こえているはずもなく、俺は「清音」に「ルキアが出かけたのはいつだ?」と半ば掴みかかる様に尋ねる。
そんな俺の行動に「清音」は臆する様子もなく、「えーとですね、30分くらい前ですかねぇ……」とお気楽に返事をした。
30分。
間に合うだろうか。
あの人相手に、30分というのは、もしかしたら手遅れな時間かもしれない。
目の前が真っ暗になるのを、必死で「それ所じゃねえ!」と自らをぶっ飛ばし、俺は「清音」への挨拶もそこそこに、十三番隊隊舎を後にした。
そのまま全神経を集中させて、ルキアの霊圧を必死に探す。
「清音」の言う通り、九番隊の方角にルキアの霊圧を感じ取り、俺はそれへ向かって脇目も振らずにダッシュした。
事の発端は昨日。
俺が現世からやってきた「井上織姫」なるナイスバディな少女と話していた事から始まる。
「井上織姫」と名乗った少女の胸は、大抵の男を唸らせる、それはもう見事な造形美だったのだ。ここ尸魂界にも同じ程のナイスバディな女性はいるが(十番隊副隊長の松本サンとか)、あどけない顔とそれに反比例した身体つき、というのは妙に男心をそそるもので。
勿論俺はルキアひとすじだ。ルキアしか見えない。ルキアだけだ。ゆーあーおんりーまいらぶ。
が。
ついつい見入ってしまったのだ。悲しいかな、男の性。
そして、呟いてしまった一言を、なんとルキアが聞いていた。
散々謝って許してもらったんだが、その時ルキアが言った『いい方法を知っている人がいるというのを聞いた』という言葉。
その相手の名が……檜佐木修兵。
檜佐木修兵だぜおい!あの自分の主張を堂々と顔に彫る男だぞ!流石の俺にも出来ねえ。いや大抵の男は出来ねえ。いや普通は出来ねえ。
絶対やめとけ、と釘を刺し、ルキアも「わかった」と言ってはいたが、別れ際のルキアの表情を見て俺は何となく不安になっていたのだ。
そして、今日。
胸騒ぎがして十三番隊を尋ねてみれば、応対してくれた「清音」の口から出た言葉は、「朽木さんは九番隊に用があるとかで外出してます」。
九番隊。
檜佐木修兵の隊。
隊長がいない現在、実質九番隊を仕切っているのはあの人だ。つまり、九番隊ではあの人のし放題。
……やばい、やばいって。
俺はこれ以上ないというくらいの速さ、自己新記録のスピードで九番隊まで駆けつけた。
俺の状態(酸素不足)に驚く九番隊の隊員に「檜佐木副隊長はいるか」と尋ねると、副隊長室にいるという。その後続いた「すみません、来客中ですので少々お待ちください」という言葉に「その客に用があるんだよ」と応えて、案内を断り副隊長室に直行した。
副隊長室の前で、俺は息を整える。
間に合ったか。
ノックをしようとした俺の耳に、微かに、けれどはっきりと中の声が聞こえた。
「……檜佐木殿、い、痛い……っ!」
「最初だけだって、その内気持ちよくなるんだからよ……ほら、まだ身体に力入ってるぞ。力抜け」
「いや、痛いっ……んっ」
「そうそう、いいぜ、ルキア」
ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!
間に合わなかった……っ!!!!
全身から血の気が引いた。目の前が真っ白になる。吐き気と全身を襲う震えに、俺は必死に耐えていた。
……ルキアが悪いんじゃない。相手が悪いんだ。
何も知らないルキアに、よくも、よくも……っ!
その俺の耳に、容赦なく二人のやりとりが耳に入る。
「ほら…もっと脚ひらけよ…」
「っぅん…も…ムリっ…!」
「大丈夫だ、まだイケるだろ…力抜けよ…?」
「ぁああっ!こ…こんな…体勢…」
先輩だろうがもう関係ねぇ。殺す。ぶっ殺す!!
「畜生、檜佐木ィ!手前ェぶっ殺す!!」
戸も砕けよと一気に乱入した俺の目に映ったのは。
「恋次!?」
うろたえた声を上げた、檜佐木先輩に背中を押されて柔軟をしているルキアと、呆気に取られた俺を見て大笑いしている先輩の姿だった。
「大きくするには『ヨガ』が効くんだよ。ただ朽木のお嬢さんは身体堅くてな。で、俺がお手伝いしてやってた訳」
未だにくくっと笑いながら先輩はそう言った。対してルキアは、昨日俺に「檜佐木殿の所には行かない」と俺に約束したのを破ってここにいるのがばれて気まずいのだろう、俺と視線を合わせないで俯いている。
「し、しかしお前、な、泣く事ないだろうっ!泣くか普通!」
「先輩が紛らわしい事するからじゃないっすか!」
「いや、お前が近づいてきたのがわかったからよ、サービスサービス」
「サービス?何がですか?」
きょとん、と応えるルキアに、先輩は「んー?阿散井の今晩のオカズは豪勢だってことだよ」とげらげら笑った。
ルルルルキアの前でなんてことを!
……否定はしないが。
「俺って後輩思いだろ?恋次。お宝生音声だぜ、感謝しろよ?」
「………ありがとうございます」
思わず最敬礼してしまう俺がいた。
「今日は外食でもするのか?夜ご飯が豪勢って……ずるいぞ、私だって一緒に食べたい」
「いやお前は食べられる方……」
とんでもないことをルキアに吹き込もうとした先輩の足を力任せに踏みにじり、俺はルキアに「そうだな、一緒に食うか」と言うと、ルキアは嬉しそうに頷いた。
「その後お前が恋次に美味しく頂かれないよう気をつけ……」
「だからうるさいなあ、あんたは!」
怒鳴りつけると、先輩は「お前、それが先輩に対して使う言葉か?」と呆れたように言う。
「あんたが妙な事ばかり言うからでしょーが」
「ふん、ちょっとムカついたし、俺。報復しちゃおうかなーっと」
一人訳がわからない、という顔のルキアに、先輩は「そうそう」とにこやかに声をかける。
「もっと確実に簡単に痛み無く大きくする方法があるんだぜ、教えてやろうか?」
俺が止めるよりはやくルキアは「はい」と頷き。
次の瞬間には、先輩の手はルキアの胸に乗っかって、
むに。
と。
むにむにむに。
……み、見えねえ!涙で前が見えねえっ!!
「きゃあああああ!!」
「やっぱり殺す!!お、俺だってまだ未知の領域、未知の触感なのに……っ!!手前ェ、ぶっ殺すっ!」
「まーた泣くか!しかもマジ泣き!!」
悲鳴を上げるルキア、怒声を浴びせる俺、げらげら笑う先輩の三人を、何事かと覗きに来た九番隊の面々が怪訝そうに眺めていた。
「お、俺もお前の胸のために貢献してやろうか?」
覗きに来た奴らを追い返して、蹲ったままのルキアに手をかしながらドキドキしつつそう言うと、
「イヤ!」
即答された。
これも全部檜佐木のせいだ。警戒心の無いさっきまでなら俺にも触ることが出来たのに。
今ではもうそれも叶わない。
「……先輩握手して下さい」
「何だよ突然」
「いや、感触残ってないかなーと思って」
せめても、と思ってそう言うと、先輩とルキアは「馬鹿かお前は」と声を揃えてそう言った。
蓮香さんから頂いたメールの中に、「よく見てるね」の続きシーンがありまして、その設定の面白さに思わず文章にしてしまいました。
蓮香さんが書いてくださった部分は、修兵とルキアの台詞シーンとストーリーで、その色っぽさにドキドキしましたよ(笑)私も騙されました、「る、ルキア修兵と何してるの!?」と(笑)
蓮香さんの台詞使わせていただいたんですがよろしいですか、とこのSSを送ったら、最後の握手シーンのエピソードが蓮香さんのメールにあって早速それも追加させていただきました(笑)
いやしかし、ものすごい色っぽいんですけど…!(笑)ルキアと修兵の台詞!
私も見習おう…(笑)
蓮香さん、ありがとうございました!