トコトコと歩く少女に気が付いたのは、誰もいない十一番隊隊舎の廊下だった。
その少女は、黄緑色の地に黄色い菜の花の絵の入った着物を着て一人歩いている。それが往来ならば特に奇異でもないが、ここは護廷十三隊最強と謳われる十一番隊の隊舎だ。違和感がありすぎる。
「どうした、お前」
恋次はそう声を掛けると、少女はくるりと振り向いた。肩までの髪が外に跳ねて、やんちゃな雰囲気を醸し出している。
「誰かに会いに来たのか?父ちゃんか?」
少女はくすっと笑うと、再び前を向き歩き出す。
「こらこら、勝手に歩くと怒られるぞ。俺が案内してやるから……って俺もまだよく解ってないんだけどよ」
なんせ昨日配属されたばかりだ。まだどこに誰の部屋があるか把握できていない。
「大丈夫、解るから」
少女はそう言うと、躊躇いもせずに長い廊下を歩いていく。
何となく放って置けなくて、恋次はその後をついていく。
「剣ちゃんっ!」
開けられた扉の向こうにいたのは、
「隊長……?」
少女はたたた、と剣八に走り寄ると、身軽にその強面の十一番隊隊長の背中によじ登る。
「お子さん……ですか?」
「ぶぶー」
少女はケラケラと笑った。剣八は表情を変えずに「俺は未婚だ」と律儀に返答した。
「私はねえ、剣ちゃんの婚約者!」
「……」
思わず恋次は引いてしまった。
ろ、ろり○ん?
最強の十一番隊隊長が?
「巫山戯るな、やちる」
「むー。でもやちるが剣ちゃんにらぶらぶなのは本当だもーん。らぶー」
恋次は眩暈がした。
この少女は一体何処でこの隊長と知り合ったのだろう。この能天気さは一体……。
さわらぬ神に祟りなし、と恋次が退散しようとしたその時、弓親が「隊長」と入ってきた。
「あれ?副隊長、今日は非番じゃなかったんですか?」
「ん?新しい着物が出来たから、剣ちゃんに見せたくて来ちゃった」
副隊長?
誰が?
って一人しかいない。
「副隊長?」
恐る恐る尋ねると、やちるは「そうだよ」と笑った。
「十一番隊副隊長、草鹿やちるだよ!新入り!」
さあ、と恋次は青ざめる。
「頭が高ーいっ!」
思わず平伏す恋次だった。