「えーと、阿散井君?」
背後から掛けられた聞き覚えのない声に、「あ?」と振り返ると、やはりそこには見慣れない少女が立っていて、恋次は一瞬眉を顰めたが、その少女の身に着けている物が、この尸魂界の物とは明らかに形の違う現世のものだったので、恋次はその少女の正体を知る。
「ああ、確かオメーは一護の……」
「初めまして、ですよねっ!私、井上織姫といいますっ!朽木さんとは同級生だったんですよ!」
その織姫の天真爛漫さに気後れしながら、恋次は「おう」と素気ない返事を返したが、織姫は気にした様子もなくにこにこと恋次を見上げている。
そう、織姫は恋次よりも背が低く―――まあ恋次よりも背の高い女性というのは皆無といっていいが―――即ち恋次が織姫を見下ろすと、なんと言うかこう―――視線はそこに釘付けになる。
その存在を主張する、織姫の胸元に。
思えば恋次の周りにいる女性の死神たちは、どちらかというとスレンダーな体型の女性が多くて、今のような体験を恋次はあまりした事がなかった。一人、十番隊の副隊長という例外がいるが、その人の前で視線をそこに落とそうものなら笑顔で鉄拳が飛んでくる事間違いない。ならばそんな露出するような着方をするなと言いたいが、それを口にすると「坊やねえ」と笑われそうなので敢えて口にはしない。
織姫が身に纏っているのは、伸縮性のある生地らしく、はちきれそうに盛り上がった胸が、否応なく視界に入ってくる。心拍数が上昇するのを感じながら、恋次は織姫の言葉を全く理解しないまま、「ああ」「おう」と返事をし、奇跡的にそれで会話が成立したようで、はっと気付けば「じゃあ、また!」と織姫はぺこりとお辞儀をして去っていった。
「うーん……ダイナマイトなバディ……」
「そうか、恋次は井上のような身体が好みか」
「そりゃ男のロマンだからな……ってルキア!!」
慌てて振り返ると、怒りのオーラを発して仁王立ちをしているルキアが目の前にいて恋次の顔は蒼ざめた。
「ふーん、へーえ。そうか、男のロマンか」
くるりと背中を向けて歩き出すルキアの後を慌てて追って、恋次は「違う違う!」と弁解するが、ルキアの歩みは止まらない。
「別に好みは人それぞれだ、いいのではないか?お前はお前好みの女性を探せ」
「俺の好みはお前だしっ!」
「私はあのように『だいなまいとなばでぃ』とやらではないしな。他を当たれ」
「すみません、ほんっとすみませんっ!!」
ルキアの目の前に回りこんで頭を下げる恋次に、ルキアはそっぽを向く。
「だから謝る必要など無いだろう、私が……無いのが悪いのだ」
「悪くない!お前はそのままでいいっ!無くなんてないぞ、充分ある!」
「見てもいないくせに勝手なこというな」
「じゃあ見せてくれ」
「厭だ」
ルキアはちょっと俯いた。「まあ……私も、気にはしているのだ」と少し恥ずかしそうに言葉を口にする。
「それでな、先日いい方法を知っている人がいるという話を聞いて……いい機会だから、聞いてみようかと思う」
「いい方法?」
「その、サイズを……成長させる、方法だ」
赤くなりながらルキアは言った。「私とてお前に好かれるような自分でいたいからな」と、聞き取れないほど小さな声で、早口で言う。
「ルキア……」
「わ、私は今何も言ってないぞ!何か聞こえたとしたら気のせいだ!」
再び歩き出すルキアの赤くなった顔を見ながら、幸せというものを実感する恋次だった。
「で、誰だよその方法知ってる人って」
「ん、檜佐木殿だ。とても効果的な方法らしい」
「……止めとけ。絶対止めとけ」
「え?」
「絶対止めとけ、なんなら俺がその方法教えてやるから」
出来もしないことを言う恋次だった。
50の「バカだね」に続きますー。