空にはまるで降りそそぐかのように、満天の星が光っている。
 宝石箱を開いたかのように、きらきらと光るそれらを見上げて、ルキアは溜息をついた。
 美しいものは、いつ見ても心を揺さぶる力がある。
「……美しいな」
 小さくそう呟くルキアの横顔の方が綺麗だと、恋次は心の中で思う。
 ふっ、とやわらかな風が二人の肌に触れて、するりと通り抜ける。辺りは静かで、星の降る音が聞こえてきそうだ。
 ルキアは恋次の肩に頭を預けて、もたれかかりながら夜空を見上げている。空を見やすいようにと身体を斜めに倒している恋次は、ルキアの身体を抱き締めたくて、それが出来ずに苦笑する。
 なにか、きっかけがあれば。
 自分でも、一歩を踏み出せそうだというのに。
 この満天の星の下、奇跡のように。
「……星のすべてが彼の夢、か」
 優しく微笑みながらルキアは言う。
「……何だ?」
「ん?歌だよ、現世の。先日、実習で現世へ降りた時に聞いて覚えたのだ。耳にとても残ったのでな……」
 星空を見上げるために仰向いていたルキアの身体が、恋次と話すために向き直った。間近にあるルキアの端正な顔に、恋次は目を奪われる。
「―――『風のすべてが彼の歌、星のすべてが彼の夢』……」
 綺麗な声で、ルキアは歌うように言った。清漣な、讃美歌のように、ルキアの詩は空へとすい込まれていく。
 自然に、恋次の手がルキアの腰にまわる。ルキアは拒まなかった。
「……綺麗な歌だな。続きを歌ってくれよ」
「ああ」
 恋次は目を閉じる。ルキアの唇が、小さく空気を吸い込んだ。

「ハメハメハッ、ハメハメハッ、ハメハメハメハメハァ〜」

「…………」
 何だこれは?
 さっきの詩の歌がこれか?
 しかも妙に威勢がいいし。「ハッ」って何だよ一体。
 ただ呆然とするしかない恋次だった。
「な、なんだそりゃ」
「『南の島のハメハメハ大王』の歌だ。一度耳にすると離れないであろう?」
「ぶ、ぶち壊しだ!!」
「なんだ、何を突然怒り出すのだ!?」
「いや怒っちゃいねえけどよ……」
 あんまりだ、と恋次は項垂れる。
 ようやく、一歩が踏み出せそうだったのに。
「な?すごい歌だろう?」
 無邪気に笑うルキアに、恋次は「ああ、そりゃ傑作だよなあ……」と淋しそうに呟く事しか出来なかった。








つい最近ハメハメハ大王の歌の歌詞の美しさに驚きました。