恋次が煙草というものを吸い出した。
 それは現世の「嗜好品」というもので、葉っぱを紙で巻いた物に火をつけると煙が出て、それを吸い込むのがいいらしい。
 何やら檜佐木殿に教わったらしく(恋次は檜佐木殿の言動に憧れているきらいがある)、突然その煙草なぞを吸いだした。また現世には色んな種類の煙草があるのだ。色んな煙草を買ってきては、恋次は「どれが美味いか」等と味音痴の癖にきき煙草のようなことをしている。
 松本殿に聞いたところ、煙草というのは吸いすぎると身体にあまりよくないらしい。
 私達は今義骸に入っているが、煙草が霊体に影響するかもしれない。そんな私の心配は何処吹く風で、横を見ると恋次は何が楽しいのか、ぷかぷか煙草を吸っている。
「―――吸いすぎではないのか」
「あ?」
「吸いすぎは身体に悪いと聞いた」
「大丈夫大丈夫、俺身体は丈夫だからよ」
 と、全く理由にならない理由を言って恋次はすうと紫煙をはき出す。
 止める気は無いようだ。
 私はふうと溜息を漏らす。勿論私は煙草など吸ってはいないから、溜息と共に煙が出ることは無い。
「恋次」
「ん?」
 かけた声にこちらを見る恋次の首に両腕を回し、私はそっと目を閉じる。
 恋次は少し驚いたようだったが、それでもすぐに私の腰に手を回して私の身体を抱き寄せる。
 唇に、感触。
 優しくこじ開けられて受け入れる舌。
 軽い、ついばむようなキスをして、本格的なものへと移行しようと私の腰を抱く恋次の手に力が入ったのを感じて、私は身体を引いた。
「ルキア?」
「―――煙草の味がする」
 眉を顰めて、口元を押さえて。
「―――気持ち悪い……」
 うっ、と吐きそうな振りをして見せる。
「お、おい?大丈夫か?」
「すまぬが、しばらく―――お前と出来ないな。煙草の味は、私には受け入れられぬ故」
「何!?」
「うがいしてくる」
 ぱたぱた、と洗面所に駆け込んで、わざと聞こえるようにうがいをして。
 部屋に戻ってみると、案の定恋次は煙草を全てゴミ箱に捨てていた。
「もう煙草は吸わねえ」
「いいのか?大層気に入っていたようではないか」
「やめる。今この瞬間からもうやめた」
「そうか、すまぬな」
「いやいや、俺には煙草よりお前との愛情交換のほうが大切……」
 生真面目にそう言う恋次の言葉が終わる前に、ご褒美で今度は私から唇を重ねてやった。
 触れるだけのキスに、恋次は「うがいしてくる」と勢い良く立ち上がり、その背中に向かって私はしてやったりと微笑んだ。
 恋次を操るなんて、こんなに簡単。
 私も中々大人の女になって来たのではないだろうか?
 が。
 そんな勝利気分はほんの僅かの事だった。
 何度もうがいをしている音のあと、部屋に戻ってきた恋次に、
「じゃ、そういう訳で」
 と更なる続きを求められて抱き上げられ、私は大いに慌てる事になった。
  








小悪魔ルキアを目指しましたが、結局恋次の勝ちでした(笑)