空気のあまりの冷たさに、ルキアの身体はぶるっと震えた。それを目敏く見つけた恋次は、「おいおい」とルキアに声をかける。
「お前、軟弱になったんじゃねーの?この程度で寒がるなんて昔はなかっただろ」
「う、煩い!偶々だ!軟弱になんかなってないぞ!」
 口ではそう言ったものの、やはり肌を突き刺す風は相当の冷気を伴っていて、ルキアは身体が震えないように手を握り締める。
 ちらりと隣の恋次に目をやれば、恋次は至って平気な顔で歩いている。
 やはり今のこの、昔に比べたら格段に贅沢な環境に身体が慣れ、弛んでいるのだろうか…ルキアは少し考え込む。
 いや、そんな事はない、と思う。
 それにどうも恋次の挙動は不振だ。
 歩き方がいつもと違う気がする。
「何か変だぞ」
「あ?何がだよ?」
 恋次を無視してぺたぺた身体に触る。すると「あちち」と恋次は飛び上がった。
「何だ、これは」
 恋次の懐に入っていた物を取り出すと、それは紙袋に包まれた鯛焼きだった。4つも入っている。それはホカホカと湯気を出していて、つまりそれを懐に入れていた恋次は懐炉を入れていたのと同じ状況な訳で…。
「人を軟弱者呼ばわりしたお前は更に軟弱…いや惰弱だな」
「わははは、ばれた」
 恋次はそのまま鯛焼きを取り出すと、「ほらよ」とルキアに手渡した。
「公園で食うつもりだったけどよ。まあいいや。食っちまおうぜ」
「ん」
「その後、買い物行こーぜ」
「何を買うのだ?」
「おめーの服。寒いんだろ」
「…ん」
「俺がいいの選んでやるよ」
「お前は趣味が悪いから厭だ」
「な、なんだとコラア!」


 ……ある日の平和な一日。








恋次の趣味って本当に悪いのか…?
好きな女に似合う服がわからないんじゃちょっとまずいでしょう。
多分、趣味が悪いのは自分の服だけ。