「それ、何だよ」
 現世へと帰る間際に織姫からルキアへ渡された紙袋を、興味津々で眺める恋次に、ルキアは「子供か、お前は」と苦笑する。けれどルキアも中に何が入っているのか気になったので、その袋の口を開けてみた。
「あ……」
 それは、白い現世服。
 ルキアが現世で着ていた白いワンピースによく似た、真新しい洋服。
 拡げて自らの身体に当ててみる。恐らく石田が自作したものなのだろう、そのワンピースはルキアの身体にぴったりだった。
 同じ様な服を着て現世で暮らしていたのは、つい一ヶ月程前の事だというのに、その記憶はとても懐かしかった。
―――長い、長い夢を見ていた気がする……
 きゅ、とその服を胸に抱き締め、ルキアはたった二ヶ月間だけ過ごした現世へ思いを馳せる。
 その、どこか切なく懐かしく、胸が微かに痛む想いに沈み込むルキアの耳に、「なんだこりゃ!」という感傷ぶち壊しの声が入ってルキアはきっと視線を上げた。
「何だとは何だ」
「お前、こ、こんな服着て出歩いてたのかよ!?」
「そうだが……?」
「お前ぇ、こ、こんな短ぇぞ!これじゃ足なんか剥き出しじゃねーか!」
 まるで自分が破廉恥行為をしているかのような言われ様に、思わずルキアは赤くなる。
「現世ではそれが普通の格好なのだ、仕方ないだろう!」
「けどよ、こんな格好で飛んだり跳ねたりしたらお前……」
「……何を想像している、莫迦者」
 冷たい視線で恋次を見ると、恋次は不意にルキアの肩に両手を置いて真剣な面持ちでこう言った。
「着てくれ」
「は?」
「着てくれ、今すぐ!これを!」
「何を言っている、大体お前が私を連れ戻しに来た時、私は同じ様な服を着てただろうが!そういえばあの服を貴様は斬魄刀で切り裂いたのだったな、思い出したぞ」
「いやあの時は頭に血が上ってあんま堪能……じゃねーや、見てねえんだ。な?もう一回着てくれ、たのむっ!」
「厭だ」
「お前っ!一護の前では平気だったくせに、俺の前じゃ着られねーとはどういうこった!」
「なんかお前の目が血走ってるからヤダ」
 この場には他に一護たちを見送りに来た面々が居る。浮竹や松本や一角や弓親、花太郎に岩鷲、彼らの目には恋次とルキアのじゃれあいは微笑ましく映る。長い間離れていた幼馴染が、ようやく全てのわだかまりを解き、恐らく昔そうであったように、極自然に喧嘩し笑い合う。二人を見守る周りの視線はどれも暖かい。
 ……一人を除き。
「とにかくそれを俺に渡せ!」
「これは私のだぞ!」
 奪い取ろうとする恋次の手から、必死にワンピースを護るルキアの前に、す、と白い手が伸びる。その手は難なくルキアの腕の中からワンピースを手にすると、
「朽木家の者は、人前で肌を露出する事は許されぬ」
「兄様……」
 しゅん、と俯くルキアに、白哉は視線を逸らし言葉を続ける。
「しかし、折角お前にとあの者が渡した手作りの品だ。一度も袖を通さぬのも不義理。……家で着るが良い」
「は、はい」
「き、汚ねえ!」
 思わず叫ぶ恋次をギロリと睨むと、白哉は「帰るぞ、ルキア」と告げ手にワンピースを持ったまま先に立って歩く。
「待ってくれ、俺の夢、俺の青春……っ!」
 追いすがる恋次を白哉は凄まじい眼力で黙らせる。
 がくり、と膝を付く恋次を見る周りの目は先程とは一転、哀れさと同情を含んだもので満ち溢れ、そっと肩に置かれた一角の手を感じながら、恋次はひとりただただ涙した。