ふかふかとした感触にぼんやりと目を開けると、目の前に夜一さまの……む、胸があって私は一瞬で硬直した。
 そのまま飛び起きなかったのは、夜一さまがお休みだったからで……私はどうやら夜一さまの腕の中で眠っていたらしい。よくお休みの夜一さまを起こさぬように、私はしばらくじっと身体を動かさないよう息を潜める。
 そうして目の前に見る夜一さまは、本当に美しい。そのお姿はまるで研ぎ澄まされた刃のようだ。
 ……こうして再び夜一さまのお側にいられる日が来るなんて……
 夢にも思っていなかった。突然姿を消してしまったあの日、世界が音を立てて崩れ落ちたあの日。夜一さまに、お前は不要だと突き放されたと思い、絶望したあの日。
 すべては誤解だったと……止むに止まれぬ事情があったと知った今は、こうして側につかえる事が出来る。それがたまらなく……幸せだ。
 そう、夜一さまの寝顔を見ながら抑えきれない幸福感に笑みが浮かぶ。
 と。
 ――腰の方に違和感が。
 なんだろう、何かが触れている。風もないこの部屋で一体何が……
 …………。
「…………うわああああ!!」
 わ、私の、何で、黒、黒い、な、なんでっ?!
「……どうした、砕蜂?」
「夜一さま!夜一さまぁ……っ!!」
 起こしてしまった無礼も忘れ、私は夜一さまにしがみついた。
 私の身に何が起きたというのだろう。何故こんな事が起きるのか。有り得ない、有り得ないけど……っ!
「わ、私に、黒いしっぽが……っ!」
「耳も生えておるぞ」
「いやあああっ!!!」
 確かに頭には三角形のものが生えている。触るとふかふかした手触り。頭との繋ぎ目をそろそろと触ると、それはしっかりと一体化していた。
「な、なんで……っ」
 混乱する私を夜一さまは「よしよし、儂がいれば大丈夫じゃ」と抱き寄せた。
 ……ふう、と力が抜ける。
 混乱が静まる。
 ……この方がいれば、大丈夫だ。
「しかしこれは……」
 夜一さまはじっくりと私の耳としっぽを検分すると「……うーん」と唸った。
「如何したのでしょう、私に一体何が……」
「似合うのう」
 にこ、と子供のように微笑まれて、夜一さまは私を再び抱きしめた。
「よ、夜一さま?」
 途端に私の頬も赤くなる。
「想像以上の可愛さじゃ。……大成功じゃな」
 …………。
 は?
 大成功?
「夜一さま?」
「何じゃ?」
「大成功とは?」
「ん?……ははは」
「……貴女という人は……っ!!!」
「いや、お主が儂の前で眠り込むのが悪いのじゃ、そんな愛らしい砕蜂に悪戯したくなるのは人として当たり前じゃろう」
「……元に戻してください」
「実はの、まだそこまで術は完成しておらんのじゃ」
「…………(怒)」
「ああ、そういえば雨竜と約束があったのじゃ、ちょっと行って来るかの」
「逃げるのですか!夜一さま!」
「お主も来るか?可愛いぞ、耳としっぽを風にそよがせて共に来い!」
 その一言で私は追いかけるのに一瞬躊躇した。こんな姿で外は歩けない……。
 そしてその一瞬で充分だったのだろう、夜一さまはあっと言う間に姿を消した。
 …………如何しよう。
 私は呆然とただただ立ち尽くした。
 ――私は……本当に幸せなんだろうか。
 少し疑問に感じて自問してしまう瞬間だった。









猫耳に燃えていた時に書いたもの。「ヘソで茶ァ沸かすわ!!」に関連しています。

砕蜂にも猫耳は似合うと思います……