その時、護廷十三隊六番隊隊長朽木白哉の機嫌は、これ以上ないと言っていい程とてつもなく悪かった。
 それは何故か。
「うー重い……」
「その程度で何を言っている」
「紙って重いんですよ?これだけの量、なんだったら隊長持ってくださいよ」
「雑用は副隊長の仕事だ」
 白哉の低い声に、恋次は「ひでーな」と呟きながら、それでも何処か幸せそうなのは、先程恋次が一番隊隊長直々に命じられたその内容の所為に他ならない。
「という訳で、俺、しばらく現世に行きますけど、隊長大丈夫ですか?俺が居なくて仕事わかります?細かい仕事、殆ど俺がやってましたからね、隊長困るような気がしますけどねー」
 半ば嫌がらせで白哉が片っ端から集めて持たせた書類と本を両手に抱えて、恋次は嬉しそうに歩いていた。

 朽木ルキアに同行し、現世へ赴き、破面の動向を調査せよ。

 先程の会議での決定を思い返して恋次は笑う。
 「ルキアに一番近しい」という理由で選ばれた事が、恋次にはたまらなく嬉しい。
 ―――これはもう俺とルキアは尸魂界、護廷十三隊公認の仲ということではないだろうか。
 反対に面白くないのは白哉である。さり気なく「私が行く」と山本元柳斎重国に念を送ったのだが、恐らく気付いていた上で重国はあっさりと無視をした。白哉の目が多少やばかった所為もあるだろう、血は繋がっていなくとも妹は妹、ここは一つ間を置こう、という年長者の配慮である。
 浮かれて一人で話し続ける恋次と、不機嫌に無言で歩く白哉は、二人の仕事場である六番隊の隊舎へと戻ってくると、白哉はそのまま執務室に直行した。恋次も書類を両手について行く。
「はー、重い……隊長、ちょっと置かして下さい」
 白哉の机を視線で示して、恋次はそう言うと、
「ああ、そうしてやろう」
 妙な白哉の返事に恋次は内心首を傾げ、よいせ、と両手の書類を机の上に置いた次の瞬間。
 白哉が瞬歩で恋次に近付いたかと思うと、がばっ!と床に押し倒した。
「!?」
 その在り得ない展開に目を白黒させ、「な、な、何」と言葉にならない恋次を押さえつけ、冴え冴えとした瞳で見下ろしながら、白哉は無表情に呟いた。
「犯してくれと言っただろう」
「はあ!?」
「だから犯してやる」

 犯してください→×
 置かしてください→〇

「――――何言ってんですかあんたはッ!!!」
「これもルキアに手を出されぬ為。私がお前の男としての自尊心と機能を破壊してやろう」
「ぎゃあああ!!やめろ厭だ離せええええ!!!」
「私とて厭だが仕方あるまい。これもルキアの為だ」
「うぎゃあああ!!厭だあああ!!こんな落ちは厭だああああ!!!」
「では、ルキアに手は出さぬと誓え」
「それも厭だあああ!!」
「貴様……っ!」
「くそう、これもルキアへの愛だ!愛が試されているんだ!!俺はこんな事で負けねえ!隊長にカマ掘られたって、ルキアを愛する気持ちは揺るがねえぞ!!」
「そうか、そこまで覚悟が出来てるのだな」
 恋次の肩を押さえつける白哉の手に力が篭る。
 間近に接近した白哉の無表情な顔に、恋次は思わず息を呑む。
「では、望みどおりに犯してやろう」
「ヒイイイイイイ!!」






「恋次!―――え?」
 浮竹から現世への任務の話を聞いたルキアは、その足で六番隊へとやってくると、隊長室の扉を開けた。
 そこに見たのは、床の上に背中を向けて座りあう兄と幼馴染の姿。
「どうしたんですか、兄様、恋次?」
 ルキアの不思議そうな声に、恋次は涙声で「俺、俺の初……」と呟き、白哉は何処か放心したように「緋真、すまぬ……お前亡き後、誰にも触れぬという禁を、私は破ってしまった……」と呟いた。
「恋次?兄様?」
「―――そんなこと言うならやらなきゃいいでしょうがッ!!」
「貴様、何故最後まで強情を張ったのだ、莫迦者!!」
「あんたこそ途中で何故止めないんっスか!!」
「お前が頷かぬからだ!!」
「俺の初接吻!!ルキアとする筈の初キス!!返せ、返せっ!!鬼!悪魔!!」
「煩い、私の唇に残っていた緋真の感触を返せ!!」
 激しく罵りあう二人を見て、訳がわからずルキアは首を傾げる。




 退く時に退かない、二人の強情さが招いた悲劇のお話。










拍手に載せた当時、結構苦情が来ました(笑)
ルキア大好きな二人が退くに退けずちゅうしてしまった話なのですが、ダメですか?(笑)
BL、って訳じゃないんですけど…あまりにも怒られたので凹んだ思い出が(苦笑)