元々僕は、自分の感情を表す事が苦手だ。
どちらかと言えば無表情。口に出す言葉も温度は低め。
だから高校に入ってからも、特に親しい友人も無く僕は一人で毎日を過ごしていた。それは別に、僕にとって何の支障もなかったことだけれど。
「雨竜、どうでしょう」
ほんの少し、声に混じった不安な色。
今までの僕だったら特に何も言わなかっただろうし、第一僕に向かって、初めて身につけた洋服が似合っているかどうか聞く女性などいなかった。
元々、僕は自分の感情を表す事が苦手だった。
口に出す言葉も、温度は低めの無愛想なもの。
けれど、今僕の目の前にいる女性(ひと)は、僕が何も言わないと不安がる。それどころか大きく意味を曲解させ、自分を卑下し、挙句「私は嫌われている」と落ち込む人だから、僕も苦手だ等と言っている場合ではなく、思った事を、感じた事を素直に言うしかなくて。
だから、今も。
「可愛いですよ」
と僕は口にする。
「可愛い」の頭に「とても」が付いていたけれど、それくらいの省略は許して欲しい。
僕は自分の感情を表すのが苦手なんだから。