それを聞いた時、すぐに従えば良かったかもしれない。表情を変えずに間髪入れずに実行すれば、こんな状況に陥る事もなかった。
そう考えても既に後の祭り。私は追い詰められて唇を噛む。
「さ、七緒ちゃん」
「……厭、です」
「でも僕痛いんだよね、ここ。七緒ちゃんに蹴られちゃってさ」
「そんな所に霊圧消して寝転がってる方が悪いんじゃないですか」
「あれ?七緒ちゃんらしくないよ、自分の非を棚に上げるなんて」
しゃあしゃあとこの人は言う。
でも元はといえば、隊長が仕事中に突然姿を消して、こんな草の生い茂った場所で霊圧消して昼寝していなければ、私は探しに来る必要も無かったし知らずに踏みつける事もなかったというのに。
「……その件については申し訳ありませんでした。ですから、そんなに痛いのでしたら総合救護詰所に行きましょう」
「僕嫌いなんだよ、薬の匂い」
「何子供みたいな事言ってるんですか」
……ああ、この人はもっと子供じみた事を今私に要求しているんだった。私は深い溜息をつく。
「そんな所に行くより、七緒ちゃんが言ってくれれば僕はすぐに治るんだけどなあ」
最初に言われた時、すぐに言えばよかった……躊躇わずに速攻で応じれば、私の表情は無表情のままでいられたのに。
「さ、七緒ちゃん。君が言わない限り僕は仕事には戻らないよ?」
……脅迫までしてきた。
「なーなーおーちゃーん?」
「……………………」
「ん?聞こえないよ?聞こえるように言わなくちゃ意味がないでしょ?」
のどかに笑うこの人の頬を抓りあげたい衝動を抑えながら、私は覚悟を決めた。
「……痛いの痛いの、飛んで行け!!!!」
自棄気味に叫んだ私に、
「んん、もうちょっと優しく言って欲しかったけどなあ、まあ許してあげようかな。羞恥に震える七緒ちゃんが見られたことだし」
そう隊長は言った。
笑って。
………笑って。
私がこんなに嫌がってるのに。
面白がって。
遊んで。
私をからかって。
「……京楽隊長」
「ん?」
振り向いた隊長の無警戒な腹部に、私は思いっきり拳を叩き込んだ。
「な、七緒ちゃん……」
「さ、仕事していただきますよ」
「い、痛いんだけど……」
「当然の報いです。部下をからかって遊ぶなんて、上司として許される事ではありませんよ」
「ちょっ……洒落にならないよ七緒ちゃん?……救護詰所……」
「……は、お嫌いなんですよね?さ、隊舎へ行きますよ?」
「ほ、本当に痛いんだけど……」
「痛いの痛いの飛んで行け」
無表情に、冷たくそう隊長に告げると。
私は、青ざめて呻く隊長の襟首を掴んで、隊舎へと引き摺って行った。
京楽隊長の大人の余裕さに、クールな七緒ちゃんが振り回されてしまうのが可愛いです。
普段は冷静なのに、京楽たいちょーのせいでペースを乱されてしまう七緒ちゃん。
また書きたい!