「何で誰か一人でもおかしいって思わねぇのかなぁ」
足下の血まみれの虚が、恐らく最後の力を持ってして襲いかかろうとした次の瞬間に、一角が斬魄刀を突き刺してその動きを永遠に停止させた。それには何の驚きも見せず、弓親は「一角だって気が付かなかっただろ」と返す。
「いやまあそうだけどよ、それ以前に突き進む誰か達の後を追うしかない状況でよ、疑問を感じる暇もなかったっつーか」
「うるさいなあ、いつまでもそんな細かい事言ってるからハゲるんだよ」
「突き進む誰か達」の内の一人が小さな身体に反して大きな声でそう言うと、「ね、剣ちゃん」と同意を求める。
その、一番突き進んでいた剣八は、不機嫌さを隠そうともせずに黙りこんでいる。
彼等4人の後ろには、高さ100メートルはあろう断崖絶壁。そして数十メートル目の前にはおびただしい数の虚の群れ。その数は軽く見積もっても300は下らない。
虚狩りに出掛けた4人は、やたら足の速い虚を深追いし――恐らくそれが目的だったのだろう、気付けばこの場所に誘いこまれていた。降りる事の出来ない崖、取り囲むように近づく虚の群れ。つまり、彼等は見事に進退極まっていた。
「どうします?隊長」
弓親の問いに剣八は「どうもこうも無ぇよ」と言い――ゆらりと立ち上がった。
「上等じゃねぇか?おあつらえの状況だ。切って斬って切って斬って切って斬って切って斬って切って斬って切って斬って切って斬って切って斬って切って斬って切って斬って切って斬りまくるにはこれ以上ない最高の状況だ!虚しかいねぇ、刀を振れば虚に当たる。血まみれに血みどろに血塗られるには完璧じゃねえか!」
近づく虚を前に、剣八のテンションは危険な程に上がって行く。それを見て一角は頭を掻いた。
「あー、つまり」
「虚の中を突破だよ!っていうか皆殺し?ね、剣ちゃんっ!」
「当然だ」
「って300はいるんスけど」
「俺が200を殺るからあとは手前ぇらで適当に分けろ」
「えー、ずるいよ、やちるだって虚斬りたいのにー。剣ちゃんばっかりずるい!」
「ふん、だったら自分で数を稼げ」
「いいよ、競争だね!」
言い様、やちるは剣を構える。
「あーあ、ちゃんと特別手当下さいよ」
「虚の血を浴びるのは気がすすまないけれど…まあそんな姿の僕も退廃的で良いかもしれないな」
一角と弓親も斬魄刀を手にした。
元より剣八は刀を手に闘気を立ち上らせている。
「じゃあ……」
やちるが笑った。
圧倒的な数の虚を前に。
僅か4人という状況を意に介さず。
不敵に無敵に微笑む。
「全速前進!」
やちるの声の元、4人は同時に走り出した。
アンケートでご希望のありました十一番隊です。
十一番隊のさっぱりした雰囲気が好き。ここに恋次がいた時の話も見てみたいです。
自分でも書くかも(笑)