「厭だ」
完璧にこれ以上もない程きっぱりはっきり拒否されて、恋次はがりがりと頭を掻いた。
「あのな、ルキア」
「い・や・だっ!」
ルキアの頬は怒りの為に上気して朱くなっている。その怒りのままにルキアはぎっと恋次を睨むと、「理由を言え」と詰め寄った。「何故突然そんな事を言い出す。…私が何か気に障る事をしたと言うのならばはっきりと言え!」
「気に障るとかじゃなくてな、その…」
「何だと言うのだ、はっきりしろ!」
恋次はどう伝えようかと暫く考えた後、「つまりだ」と切り出した。
「俺もお前も、もう子供じゃない」
「そうだな」
「で、俺は男でお前は女だ」
「何を当たり前な事を言っている」
「という訳で、俺はお前と同じ布団ではもう寝る事は出来ん」
「だから何故そうなるのだっ!!」
ルキアはバン!と布団を叩いた。
恋次達が所有している布団は三組。その内二つの布団に三人が、残る一つの布団に恋次とルキアが休む。それは身体の一番大きな恋次と一番小さなルキアの組み合わせが妥当だったからなのだが。
「…そうか、訳のわからん事を言ってるが、要するにお前はただ単に私と同じ布団で寝るのが厭だという訳だな」
もういい、とルキアは布団から抜け出すと床の上に直に横になった。そのまま恋次に背中を向けてしまう。
「こら、風邪引くだろーが」
「うるさい、放っておけ」
暫く声を掛け続けたが、ルキアは一向に振り返らない。とうとう恋次が根負けして、「わかった、俺が悪かった」と頭を下げた。
「変な事言ってスミマセン。本気じゃないです。許して下さいルキアさん」
「…他には?」
「あーあ、ルキアがいないと寒いなあ、一緒に寝てくれねーかなあ、布団に入ってくれたら嬉しいなー」
「そうであろう?」
嬉しそうに、飛込む勢いでルキアは布団の中へ潜りこむ。
「あんまり変な事を言い出すな。びっくりするだろう」
僅かに拗ねたように口を尖らせてルキアは恋次に抱きついた。そのルキアの行為に、恋次はこっそりと溜息をつく。
毎日繰り返されるこの状況。
蛇の生殺し?
「待て」状態の犬。
ルキアは恋次の胸に顔を埋めて身体を摺り寄せる。何の意識も知識もないから始末が悪い。
「いいか?お前がこの先何を言っても何を考えても―――」
腕の中でルキアは恋次を見上げながら、
「私は離れてなんかやらないからな」
そんな言葉を、やはりまだ少しだけ怒りを滲ませて口にするルキアにもう一度「悪かったって」恋次は謝った。それに満足したのか、すぐに寝息に変わったルキアの華奢な身体を、起こさぬ程度に力を込めて抱きしめると、恋次は諦めたように目を閉じる。
伝わる熱が、愛しい。
「―――離してなんか、やるもんかよ」
お互いがお互いを離さない、と思っている幸せな頃。
二人はこの後、相手を想うばかりに間違いを犯して離れてしまいますが、173話で原点に戻ってくれましたので私は幸せ。
この話は拍手で頂いた感想が多く、評判が良かったです。ありがとうございますv