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 「本の雑誌」 2009年11月1日発行 本の雑誌社 648円+税


本の雑誌

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 本の雑誌社発行「酒とつまみ」誌の編集長・大竹聡氏は、同時にエッセイストであり、本誌「本の雑誌」誌に「本のつまみ」というエッセイを連載しておられます。 とても本が好き・お酒が好きな方のようで、「今夜もイエーイ おなじみ酔いどれ編集長」と紹介されていました。
 「本の雑誌」2009年11月号には、「昭和の文学が面白い!」という特集が組まれており、この中で大竹氏は例月のエッセイの他に「文士の酒場探検記」という一文を載せておられます。 この記事の中で、ルパンも紹介して頂きました。

本の雑誌

 ……次に向かいましたのが、『ルパン』です。
 太宰治がスツール、の上で立て膝をしている写真で有名な、あのバー。あの有名店へ、 太宰ゆかりの企画であるからいっそマントでも羽織って行っておいで、というのが『本の雑誌』編集部だ。
 ご無体な、と思う間もなく店に着き、扉を開け、階段を下り、店内に入って少し奥のほうのカウンターに席を取ります。
 ああ、緊張する。
「ジンリッキー」とようやく発声してから急いで訪問意図を説明すると、どうぞごゆっくり、との返答をいただく。
 ちょっと落ち着いて店内を眺めれば、ありましたよ、あの写真。かっこいいねえ。 というのもこの私、津軽は金木にある太宰の生家まで地吹雪の中を訪ねたこともあるほどの太宰好きだった。『女生徒』風に言えば〈身悶えしちゃう〉くらいだったから恥ずかしい。
 そんなことツラツラ思っていると、
「ちょうど、そちらの席です。よかったら、お掛けになってください」
 バーテンダーさんが指し示した席こそ一番端の太宰席だ。遠慮なく座り、スコッチのソーダ割りをもらい、クイクイと飲む。 写真は林忠彦氏の作品で、この日、織田作之助、坂口安吾、太宰治の三人を撮影したという。
 写真の太宰は、誰かと話している。その人の左肩が写真の端に写っている。
「この肩が写っている人、安吾さんです」
 おお! 我が青春の坂口安吾。そんなんばっかだなお前はと言わないで。

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感涙に咽びながら安吾さんが飲んだ頃と変らぬショットグラスでモルトをひと息に飲み、再びソーダ割りに戻してクイクイと飲む。
 疲れて穏やかな表情の太宰はこの年、『冬の花火』を書いている。小さい作品だが名作だと思う。太宰、三七歳のときだ。 それに引きかえこのアタシ、疲れは疲れでも飲み疲れているだけの四六歳。しかも小 太りときている。
 なんたることかとしばし意気消沈しつつも、銀座にまた一軒、居心地のいいバーを知るこ とができた幸運を胸に、店を出ることにしました。